英タワマン火災は、なぜ大惨事になったのか 火災で露呈した低所得者層向け住居の実態

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メディアの報道によると、直接のきっかけは4階に住む住民の冷蔵庫が爆発したことにある。住民が近隣に「火事だ」と伝えたのが14日午前零時50分ごろだった。

駆け付けた消防隊員によると「これほどの規模の火災がこれほどの速さで広がっているのは見たことがない」(タイムズ)。火は「15分ほどで24階のビルの上部に向かって駆け上がっていった」という。そして約24時間にわたって、外壁が真っ黒になるまで燃え続けた。

いったいなぜ、これほどの火災になったのか。

一説によると、昨年改修された際に使われた外壁保護材が建物全体を「まるでマッチ箱」のようにしてしまい、このために考えられないほどの速さで火が広がったのではないかと言われている(ただし、BBCによると、この保護材をつける作業を担当したハーリー・ファサード社は関連性を否定しているという)。

昨年5月に大規模改修が終わったばかり

グレンフェルタワーは、ケンジントン・チェルシー行政区が1974年に建設。昨年5月、860万ポンド(約12億円)かけた大規模改修工事が終了したばかりだ。ただ、その安全性については疑問が呈されてきた。住民による「グレンフェル・アクション・グループ」が結成され、2013年2月、十分な火災防止設備が整っていないことを指摘。メンバーは改修後の2016年11月にも対策が十分ではないという趣旨の文章をブログに書いていた。

さらに、大量の散水によって消火活動を行う自動スプリンクラー設備がついていなかった。現在の英国の法律では、高さ30メートル以上の住宅用ビルを新築する場合スプリンクラーを装備することが必須となっているが、地方自治体は法律ができる以前に建てられた高層住宅にスプリンクラー設置をする法的義務はない。

過去にも大規模火災はあった。ロンドン南部の低所得者向け高層住宅「ラカナルハウス」で火災が発生し、犠牲者が出ている(2009年)。ここにもスプリンクラーが付いていなかった。

今回の火災では「警報を聞かなかった」という住民も複数いる。ビル内に貼られていた緊急時のアドバイスには、火災の際には外に出ず室内にとどまっているようにと書かれていた。これは火災が発生した部屋の中で完結することを前提としていたためだ。廊下や階段に煙が出た場合、消えるまでには時間がかかる。住民らが煙に巻き込まれず、落ち着いて階段を使って退避することを想定していたのである(数百人が住んでいるのにグレンフェルタワーの階段は1カ所だけだった)。

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