英タワマン火災は、なぜ大惨事になったのか 火災で露呈した低所得者層向け住居の実態

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15日の英新聞各紙。1面はどこもグレンフェルタワーの写真を大きく掲載している(筆者撮影)

15日付の英新聞各紙の1面には、夜の暗闇の中でどす黒い煙を出しながらオレンジ色に燃え盛るグレンフェルタワーの写真が大きく掲載されていた。

2001年9月11日の米大規模同時テロで攻撃を受けた世界貿易センタービルを彷彿とさせるショッキングな写真のうえに、「死の罠」(デイリー・メール)、「地球の地獄」(メトロ)、「なぜこんな地獄のようなことが起きたのか」(サン)、「15分で災難に」(タイムズ)などの見出しが躍る。

各紙は火災特集に数ページをあて、消防隊の活躍、まだ住宅の中にいて窓から助けを求める男性、命からがら逃げた住民の姿が写真とともに報じられている。さらに、高層住宅の構造図とともに火災が広がった状況分析を伝えた。

逃げ切れなかった住民も

突然の火災発生に、逃げ切れない住民もいた。デイリー・メールによると、妹が住民の1人というフランシス・ディーンさんが妹のザイナブさんから電話をもらったのは14日午前1時半過ぎ。グレンフェルタワーに到着したのは20分後だった。

「心配するな、落ち着け」と携帯電話で言い続けた。14階にいた妹の元にすぐにも行きたかったが「危険だから」と消防士に止められた。「階段を下りて来いよ」と妹に言ったが、「煙がいっぱいで降りられない」。兄は妹に「もうすぐ消防士が行くからな。待ってろよ」と言い続けた。

午前3時少し前、いよいよ消防士がザイナブさんを救うために動くことになり、ディーンさんから携帯を受け取った。しかし、ほどなくして消防士は携帯をディーンさんに戻した。「愛している、と言ってあげてください」。ディーンさんは「ああ、これでもう終わりだ」と思ったという。携帯を耳にあてたが、2度とザイナブさんの声を聞くことはできなかった。

グレンフェルタワーの住人は600人前後。ロンドン警視庁によると、15日夜時点で消息が分からなくなっている人が多数おり、死者と負傷者の数は今後も増える見込みだ。

火災発生時から現在まで、ニュースは火災の報道一色。ニュースサイトは「ライブ・ブログ」を設置して災害の様子を刻一刻と伝え、テレビ局のニュースは現場にいた市民が撮影した映像を紹介してゆく。惨劇の恐ろしさがリアルに伝わってきた。

では、なぜ火災が起きたのだろうか。

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