英タワマン火災は、なぜ大惨事になったのか 火災で露呈した低所得者層向け住居の実態

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ケンジントン・チェルシー行政区が改修を依頼した民間の建設会社ライドン社が手抜き工事をしたのではないかとの疑問の声も出ている。果たして真相はどうだったのか。火災拡大の原因解明にはもう少し時間がかかりそうだ。

火事があったケンジントン・チェルシーは、ロンドンの高級住宅地ひとつ。元プレミアリーグ選手デイビッド・ベッカム夫妻がここに住居を構える。この地区の平均住宅価格は136万9708ポンド(英登記所調べ)と、英国の平均住宅価格の6倍以上に上る。

しかし、人口密度がロンドン内で2番目に高いこの地区には、貧困スポットも点在する。

スラム化を防ぐための住宅だった

グレンフェルタワーはケンジントン・チェルシー行政区がケンジントン北部に建築した、低所得者用高層住宅4錬で構成される「ランカスター・ウェスト・エステート」の1つ。

フィナンシャル・タイムズの建築批評家エドウィン・ヒースコート氏によると、建設理由は移民出身者や低所得者が集まる地域がスラム化することを防ぐためであった。

こうした住宅は日本の地方自治体に当たる「カウンシル」、あるいは「バラ」と言う行政区が税金を使って作るため、「カウンシルハウス」(公営住宅)、あるいは近年では「ソーシャルハウジング」、「アフォーダブルハウジング」と呼ばれている。低所得者の市民が廉価で入居できる公営住宅だ。

ヒースコート記者によると、1960年代、1970年代に建てられたカウンシルハウスは安普請が多かったが、グレンフェルタワーは外壁にしっかりしたコンクリートの柱を使った、よりまともな住宅であった。

かつては比較的スペースに余裕がある作りになっていたが、最近ではより小ぶりになり、入居者を増やすようになったという。120戸が入っていたグレンフェルタワーに階段が1カ所にしか設けられていなかったことは「驚きだ」と書いている。

労働党議員デービッド・ラミー氏は「苦しむのはまた貧しい人々だ」と題するコラムをデイリー・ミラーに書いている。

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