「休憩がなかったり、トイレにも行けなかったり。立ち仕事で休憩なしでずっと接客。新しいiPhoneが出たときとかは、本当に朝5時から夜11時まで働き詰め。私が働いているところは人員不足もあってキツイ。現場で接客するのはほぼ全員が派遣社員で、量販店社員はレジ近くで監視しています。簡単に言えば、派遣の私たちは奴隷とか部品とか、そんな扱いです」
某家電量販店は販売する商材によって編成が分かれ、量販店社員を頂点にして厳然なヒエラルキーがある。派遣販売員の人事の権限は担当社員にあり、彼女が「奴隷か部品」と感じるように、職場はどこに配属されても総じて人間味はなく、販売店社員によるパワハラの温床となっているという。
「たとえば社員が聞いたことに対して答えられなかったら、もう明日から来なくていいよって即クビになります。私たちは“出禁”って呼んでいます。直接雇用されているわけでないから、そういう扱いが当たり前。社員の命令どおり、言い訳せず、絶対服従して動くしか選択肢がないわけです」
絶対権力のある量販店が彼女ら派遣社員に求めるのは、誠意ある接客ではなく、売り上げだ。携帯電話になると本来の目的である本体にプラスαで、何を買わせることができたかを厳しく問われる。
高齢者や無知な人に不要な商品を売りつける
「ちょっと前に行政指導を受けて問題になった商品があるのですが、それを売れとか。なるべく高額なSDカード売れとか、量販店のクレジットカードを作らせろとか。お客さんのほうで買いたいなと思ってもらったならいいけど、ノルマがあるのでたとえば“これを買ってくれたら、私が携帯の設定やりますよ”とか、売り場全体が変な方向に進んでいます。携帯とかパソコンに詳しい人には余計な商品を薦めずに契約をすぐ終わらせて、高齢者とか無知な人にはどんどんさまざまな物を売りつけます。私も含めてみんな嫌々売りつけています。正直、すごいストレスです」
無知な客や高齢者に売りつけやすいのは、128GBのSDカードだという。ネット通販などで買えば7000円程度、キャリア経由で買うと倍以上の金額になったりする。高齢者に128GBは必要ないとわかっていても、心を痛めながら適当な言葉を投げかけてどんどん買わせる。
派遣社員と量販店の有期雇用契約は3カ月ごとに更新される。言われたとおりに商品を売らないと、すぐに職を失い生活ができなくなってしまうという。
「無理な販売が多すぎます。クレーム対応に追われているので、数字を出せないスタッフ=結果を出さないスタッフという風に量販店の人間から見られて、みんな無理やり必要ない商品を売り付ける習慣が日常化しています。後日、説明不足だというクレームが多発して、その対応に日々追われて長時間労働になるという悪循環です」
繁忙期になると、トイレにも行けなくなる。多くの派遣販売員たちは、1日トイレに行けないので水分を採らないようにする。
「頭が痛くなって視界が揺れたり、脱水症状っぽくなったり。この前、量販店社員が実績出せなかったキャリアの営業を呼び出して、靴に強力なセメダインをつけて長時間立たせるなんてこともありました。量販店社員からのパワハラはすさまじくて、私はけっこう長く我慢して続けているけど、とても長くできる仕事じゃないです」
現在の職場を語る佐伯さんは、何度も深いため息をつき、表情は終始うんざりしていた。
23歳で社会人になってから、ずっと派遣販売員をしている。家電量販店での現在の日常にはウンザリすることばかりだが、派遣社員はどこに配属されても将来的な展望や希望はなく、日々、心を殺しながら目の前の日常を乗り切るだけとなる。
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