HUNTER×HUNTERが休載がちでも人気の理由 不定期掲載はもはやこの作品の芸風となった

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もうひとつ、HUNTER×HUNTERで印象的なのが「設定の解説」だ。どんなバトルマンガでも敵味方の能力や相性、技の紹介パートは欠かせないが、HUNTER×HUNTERはその設定解説が非常に細かい。明らかにそのために用意されたであろう修行シーンもあるし、ナレーションを使った世界観や技のシステム解説で紙面が埋め尽くされることもある。

例えるなら、ゲームの攻略本がマンガの中に入り込んでいるような状態だ。冨樫氏自身、ゲーム好きを公言しており、技の分類や相性設定などにさまざまなゲームの影響が見て取れるし、ゲームの中に入り込むエピソードが展開された際は作中で攻略本顔負けのデータ解説が行われた。

この「ゲームの攻略本のような解説」が考察したい、語り合いたい読者の心をくすぐる。特に能力の基本設定である「念」の考え方は拡張性が高く、ポケモンやカードゲームの強さ議論、相性の分析をするのが好きな層にとって格好の考察の的だ。それでいて、解説に興味がない人は読み飛ばしてもそれほど問題はないという、絶妙なバランスを保っている。ストーリーを追うだけでなく、設定を語り合うだけでも楽しめるようなつくりになっている。

「バトル」「ミステリ」「ゲーム」。HUNTER×HUNTERは少年の心をつかむ要素が多彩に盛り込まれている。さまざまな読者が自分の好きな要素にひきつけられ、好きに楽しむ土壌がつくり出されている。

長年の休載によって培われた「不定期掲載という芸風」

もはや、不定期掲載はこの作品の芸風になった。あくまで偶然の産物ではあるのだが、今や休載によるデメリットを受けていない。むしろ、不定期だからこそ連載再開を喜ばれる。「連載することそのものが喜ばれる」というパラダイムシフトを引き起こした。それは、冨樫氏と読者との「必ず楽しませてくれる」という信頼の下に成り立っている。

染宮 愛子 ライター/漫画シナリオ研究家

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そめみや あいこ / Aiko Somemiya

1982年、宮城県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、研修会社のコピーライターとして就職。広告宣伝および研修企画に携わり、6年間で会員制クラブの会員を約5倍強にし、数十万単位の高額セミナーを定番商品化させる。また、仕事の傍ら趣味のパロディ小説執筆を続行し300本以上を書きあげる他、アマチュア作家の展示即売会『コミックマーケット』に8年連続出展する。コピーライターの知識、漫画ストーリーの分析力、小説を執筆してきた経験を元に独自の『愛され続けるコンテンツの本質』『時流にのったキャラクター・ストーリーの活用法』を考案。執筆活動及び講演活動を行っている。 公式サイト:http://chimakoro.xii.jp/

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