労働時間の削減で賃金が減っては意味がない 「働き方改革」の落とし穴に要注意

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パートタイム労働者の賃金水準は一般労働者よりも低いが、パートタイム労働者比率が1990年代前半の15%程度から30%程度まで上昇しているため、パートタイム労働者の賃金総額が労働者全体の賃金総額に占める割合は、1990年代前半の5%未満から10%程度まで高まっている。

また、一般労働者の所定内給与は労働時間に連動しないが、特別給与(ボーナス)が長期的に減少している結果として労働時間に連動する所定外給与の割合は上昇傾向にある。労働時間連動型給与の割合が高まっていることは、労働時間の変動が労働者の賃金総額に与える影響が従来よりも大きくなっていることを意味する。

メリハリをつけた長時間労働の是正が重要

働き方改革を成功させるためには、労働生産性の向上が不可欠だが、賃金変動に直結する労働時間を削減すれば、家計所得の減少を通じて経済が低迷し、結果的に労働生産性の低下を招くおそれがある。

長時間労働の是正に関しては、メリハリをつけた取り組みが求められる。具体的には、成果や賃金が労働時間に連動しやすいパートタイム労働者と労働時間に連動する部分が少ないフルタイム労働者とは区別して考える必要がある。

フルタイム労働者(一般労働者)については、サービス残業の根絶や有給休暇の取得推進、無駄な業務の削減などによって所定内労働時間を削減することに重点を置くべきだ。一方、パートタイム労働者については、労働時間の削減よりも、育児・介護や税・社会保障制度上の問題など就業を阻害する要因を取り除くことによって、追加就業を希望する者の労働時間を延ばすような方策を採ることを優先すべきだろう。

斎藤 太郎 ニッセイ基礎研究所 経済調査部長

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さいとう たろう / Taro Saito

1992年京都大学教育学部卒、日本生命保険相互会社入社、96年からニッセイ基礎研究所、2019年より現職、専門は日本経済予測。日本経済研究センターが実施している「ESPフォーキャスト調査」では2020年を含め過去8回、予測的中率の高い優秀フォーキャスターに選ばれている。また、特に労働市場の分析には力を入れており、定評がある。

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