「同性婚」合法化へ動き出す、台湾の光と影 同性愛者vs反同性愛者、宗教団体の対立激化
もう一人特別法の制定に批判する人がいる。台湾南部・台南市の同性愛運動家である洪国峰さん(24)だ。「特別法の制定は、依然として米国での人種差別と似ている。白人と黒人は同じバスに乗れるのに、同じバスでも黒人は後ろの座席に座ったり、あるいはまったく別のバスに乗せられるようなもの。権利は与えられたが、形式上はまだ差別であり、隔離だ。このようなやり方で社会が同性愛者を受け入れられるのか。また同性愛者と共存できるだろうか。こんなやり方では同性愛者を傷つけてしまう。同性愛者はなんら恩恵も福祉も要求していない。われわれが望むのは、ただ異性愛者と変わらない平等な待遇だけだ」。
洪さんは台南の名門・国立成功大学の学生会長を経て、同性婚を推進する運動を始めて5年になる。洪さんの男性の恋人である楊智達さん(26)は、「同性愛友好」というスローガンを叫び、台南市で立法委員(国会議員)選挙に出馬したこともある。楊さんは「この数年間、同性愛を支持する世論が拡大しているが、同時に反対者も増えてきている。同性愛を支持する人の中にも、積極的支持者と消極的支持者がいる。消極的支持者はその気持ちが変わりやすい」と指摘する。
台湾人の多くが定見なく、意見が変わりやすい?
楊さんは「台湾では、あらゆる問題についてはっきりと支持・反対という立場を示さず、かえって定見がないままトレンドに巻き込まれてしまう人が多い。そのため、各人の支持するか反対するかという意見は、よく考えて出されたものではない。また、彼らに扇動的な情報や誤った情報を与えると、従来の立場を簡単に変えてしまうこともある。大多数の台湾人は、本当に同性愛に賛成しているのかどうか、私は疑わしいと思っている」と言う。楊さんはこれまでの同性愛運動の経験から、表面上は開放的な台湾では簡単に見られない実情を打ち明けた。
新たな問題も生じている。同性愛を含む性における平等という問題を、小・中学校の教材に入れるべきかどうかという問題だ。同性愛運動家と多くの市民団体は、前衛的とも受け止められる主張を持っている。しかし、多くの保護者が「同性愛者との関わりを排除しない」と思っていても、いざ自分の子どもたちが同性愛に関する内容がある教材を手にすると、どう考えるだろうか。「子どもが同性愛者になるだろうか」と恐れ、キリスト教団体のような反対的な立場を示す可能性も十分に考えられる。
前出の祁さんは、同性愛に関する内容が教材となることに反対する。とはいえ、理由は彼なりの戦略的な考えからだ。「抵抗があまりにも強くて、そこまでする必要があるのか」との記者の質問に、祁さんはこう反論した。「理論的には教材にすべきだ。だが私はほかの運動家や団体と違う。子どもたちはほとんどがテレビを見て、インターネットから情報を得ているのが現状だ。そこで、最もよい方法は、たとえば既存メディアやSNS(ソーシャルネットサービス)において、同性愛者の成人や子どもがともに手をつないで出勤・登校する様子を伝える形で、同性愛に声援を送ればいい。こうすれば、保護者と学校の教員たちも、罰を与えることはできなくなるだろう」。
日常の生活の中で、自然と同性愛がわかるような行動を支持する、それこそが社会で受け入れやすい方法だ、と祁さんは説明する。すなわち、「自ずと感化される」ような形で市民に影響を与えながら同性愛者と異性愛者との関係が次第に近くなれば、自分の性向も明らかにできて社会の中で適応できる、というのだ。一方で祁さんは、同性愛の問題を教材とすることを推進すれば、現在の状況からでは、かえって同性愛者の権益を推進するための運動によって、多くの障害が生じやすいと考えてもいるようだ。
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