トランプ期待は剥落も米国の景気は弱くない FRBは6月に利上げ、12月には再投資の縮小も

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税制改革やインフラ投資は、予算に絡むことなので法案が成立するまでには時間がかかる。これら施策への過度な期待は剥落しても元に戻るだけで、マイナスにはならない。米議会の夏休み前の予算成立は無理でも、年内にどこまで道筋を示せるかだ。2018年秋の中間選挙を控え、来春までに、トランプ政権と共和党主流派がどう折り合っていくかだろう。

その一方で、規制緩和は大統領令や人事で動くものであり、実現すれば長期的な経済底上げに効いてくると思われる。市場は税制改革ばかりに注目するが、今後は規制緩和の進捗フォローのほうが重要だ。その流れをどう織り込んでいくかが注目される。

FRBは淡々と金融政策の正常化を進める

筆者の米国出張前から、トランプ相場は終わったと言い切る投資家はいた。現地で聞いてもトランプ期待はもう剥げたとの認識は強かった。もはや米株は業績と経済動向を見ていくべき別次元の動きになっているといえるだろう。

企業決算が一巡した目先6月の重要イベントは、13~14日開催のFOMC(米国連邦公開市場委員会)となる。また経済動向やFRB(米国連邦準備制度理事会)に関して多くの方と意見を交換したが、筆者は米国経済の緩やかな回復持続は可能と見ており、6月、9月の利上げ、12月の再投資縮小開始を予想する。FRBは淡々と金融政策の正常化を進めていくだろう。

5月2~3日開催のFOMCの議事録では、6月利上げを示唆したと同時に、再投資政策の縮小について議論が進展したことが明らかになった。大半のFRBメンバーは、弱含みの経済指標、弱い物価上昇率は一時的と判断している。米国経済の先行きに自信を持っており、潜在成長率を上回る成長(2%台で十分)を持続できるなら、3ヵ月に1回の緩やかな利上げペースは可能と考えている、と読み取れた。筆者にとってのサプライズは、米国債券市場がハト派の意見に反応し、10年債金利が6月利上げを9割弱織り込んでも2.2%台で推移していることだ。それだけ今後の物価上昇のパスを描けない参加者が多い証左なのだろう。

テーパリングの話で市場が混乱しない(長期金利が急上昇しない)のは、FRBにとっては、市場とのコミュニケーションに成功したともいえ、居心地がよいかもしれない。一過性の携帯電話通信料と一部耐久財(自動車関連)価格、医療サービス価格の下落傾向だけなら、2%近辺で安定するとの物価上昇率見通しは変える必要がない。ハト派が経済指標を見極めたいと考えるのは自然だが、執行部は経済の上振れリスクを意識している。5月の雇用統計は市場予想を下回ったものの、利上げは前倒しの可能性のほうが高いとみている。

岩下 真理 大和証券 チーフマーケットエコノミスト

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いわした まり / Mari Iwashita

慶應義塾大学商学部卒業後、太陽神戸銀行(現・三井住友銀行)入行、市場部門で国内経済、円金利担当のエコノミストを経験。2007年4月大和証券SMBCで日銀ウォッチャーを担当。2009年に日興コーディアル証券でチーフマーケットエコノミストとしてホールセール調査の立ち上げに参画。2011年4月SMBC日興証券チーフマーケットエコノミスト、SMBCフレンド証券を経て2018年1月より大和証券、現職。総務省・消費統計研究会委員。ロイター・コラム、時事通信「円債投資ガイド」を定期的に執筆中。仕事のモットーは3つ。(1)世界地図の上で物事を考えること、(2)ホットで付加価値のある情報提供と分析、(3)わかりやすく楽しい経済解説。アネクドータルな情報収集に加え、経験値と好奇心のフル稼働で潮目の変化を読み解く。趣味は世界遺産巡りで、パンダ好き。かつては歌姫、意外にもボーリングは得意?!

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