アウシュヴィッツで考える、麻生発言(上)

アウシュヴィッツ強制収容所を訪問

これは、今を生きる私たちの問題

さて、長々と昔の惨劇について書きつづってきたわけだが、アウシュヴィッツでのガイドさんの最後の言葉が印象的だ。この問題は、遠い過去に起こった気の狂った一部の人間の問題ではなく、私たち一人ひとりの問題なのだと。

この犯罪に加担した人たちは気の狂った野蛮人ではなく、信仰心が篤く教育水準の高い、ヨーロッパ最大の文明国ドイツ人である。ナチスの行為は、人間はいざとなればどれだけ野蛮で残酷になれるか、人間の恐ろしい本性の一つの記録なのだと。

戦後、ナチスドイツの蛮行は様々な分野で研究がなされた。なかでも心理学者ミルグラムの実験は有名で、人間とは上からの命令に極端に脆弱で、上司からの命令がどのように酷いものでも結局盲従してしまうのが大半であることが明らかになっている。

またこれも有名な実験でその実施が今や禁止されているものだが、スタンフォード大学の実験で受刑者と看守役に分かれたロールプレイングゲームで数日もすれば、看守役が極端にサディスティックになり受刑者役への過酷な虐待が横行して、その実験が途中で中止され、このような実験自体が法律で禁止された。

アウシュヴィッツの強制収容所で表出した、人間の残虐性は決して1940年代初頭のナチスに限られたことではない。共産主義のスターリンの下でも、旧日本軍による731部隊による人体実験をはじめとしたアジアの侵略でも、ルワンダでも、カンボジア(クメール・ルージュ)でも見られた、人間が普遍的にもつ性質の一つなのだと。

ここにはどこの国の人が、どこの国の人を殺したか、よりも重要なメッセージがある。人間は一定の条件下で命令されればどのような残虐な行為も平気で働く動物であり、だからこそそんな狂気に人間を追い込む戦争や政府によるプロパガンダ、全体主義の強要や思想コントロール、そして他民族に対する社会的な憎悪を煽る行為を、抑えなければならないのだ。

アウシュヴィッツを含めた世界各地で起こってきた“人間の負の本性”を常に胸に留め、それを次世代に伝えることで、無数の犠牲者にささげる祈りとしたい。
 

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