アウシュヴィッツで考える、麻生発言(上)

アウシュヴィッツ強制収容所を訪問

抵抗させないために、直前まで希望を与える

あなたの高校時代から付き合って結婚4年目を迎える美しい妻は、収容所の軍医から、“今から全員とりあえずシャワーを浴びてから消毒して、新しい居住地に向かうことになる”と説明される。数日間列車の中ですしずめだったので、皆身体は汗と埃にまみれており、なるほど皆シャワーを浴びるのはもっともらしい。

シャワーを浴びるのだと言われ、列に並ぶ女性と子供たち

全員、人前で裸に着替えさせられるのは保守的な家庭で育った妻には非常に恥ずかしかったはずだ。そして老人や子供、女性を中心とした1400人ほどのグループが一斉に地下のシャワー室に誘導される。コンクリートの塀に囲まれたその部屋は天井にシャワーがついており、間もなく熱いお湯が降り注いでくるのだろう。疲れて泣き叫ぶ子供を抱きかかえながら、あなたはシャワーが出てくるのを待つ。そして重い鉄の扉が締められたとき、あなたの妻はそれが最後の瞬間であることに気付く。

あなたの妻と子供を窒息させる白いガスが立ち込める中、あるものは泣き叫び、あるものは祈りはじめ、多くの人は壁のコンクリートを爪で掻き毟って最後の命の叫びをあげるが、10分も経てばそこは死体の山となる。妻と子供の泣き叫ぶ声は外部に聞こえないよう、ガス室の外には大きなトラックがエンジンの爆音を鳴らしており、この中で家族に何が起こったかあなたは気付かない。

処刑にユダヤ人自身を加担させる

その後、死体処理にまわったり、あなたの強制労働を管理したりするのは、縦じまの囚人服を着せられた同じユダヤ人の収容者たちだ。ナチスの党員によれば、この仕事を続ければ最後は自分達だけは自由にしてもらえるらしい(もちろん嘘なのだが)。

10分前まで生きていた同胞である女性の体から金歯やイヤリング、貴金属を取り出して、これらをドイツ本国に軍事物資として送る。女性の髪の毛は刈り取られ、軍需用の布の原料にされる。ものの数十分前まで生きていた被害者が家から持ち運んできた必需品は、軍部の資源として活用される。あなたの家族の体は、軍需物資を生み出すための機械的な原材料に過ぎない。

ホロコースト犠牲者の靴。一足一足が、各犠牲者の人生と歩んできたはずだ

貴重品と髪の毛が刈り取られたあなたの家族の死体は、その隣の部屋の火葬工場に手際よく運ばれ、その死体のID書類とともに“生きていた証拠”が焼却処分され、黒い煙が一日中煙突から立ち込める。ガス室の外で強制労働の合間に空を見上げたあなたは、その黒い煙が愛する家族の最後の姿とは夢にも思わない。

ナチスは当初、(多くの侵略軍がそうするよう)その犯罪行為を隠蔽するために諸々の施設や書類を焼却したが、アウシュヴィッツはソ連による侵攻があまりに急速だったため、ナチスも証拠隠滅に失敗し、その実態が徐々に暴かれることとなった。

次ページ当初はプロパガンダだと思われていた
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