「内定承諾書」を書いた後の辞退は可能か? 売り手市場でせかす採用担当者への対処法

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内定辞退により損害賠償責任を負うかが争われた裁判に、平成24年(2012年)12月28日東京地方裁判所の判例(「アイガー事件」)があります。この裁判では当初、Y社から内定を受けたX氏が、入社前の研修でY社の課長から内定辞退を強要されたとして損害賠償請求を提起したのに対し、Y社が反訴。X氏の内定辞退が債務不履行または不法行為に当たるとして損害賠償請求を提起したものです。

判例は内定辞退による損害賠償責任を否定

この裁判では結果的には、どちらの主張も認められませんでした。X氏の主張に対して、Y社課長には内定を取り消す権限はなく、発言に行きすぎの感はあったが内定辞退を強要されたとはいえない、とされました。

Y社の主張に対しては、Y社課長の発言が叱咤激励の範囲にとどまる穏当なものであったとは考え難く、それが1つの理由でX氏が留年の手続きをしており、「内定辞退の申し入れは、信義則上の義務に著しく違反する態様で行われたとまではいい難く、X氏は債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任を負うものではない」と判示されました。

しかし、この判決はどのような場合に信義則違反となり、どのような責任が生ずるのかは述べていません。

まだ就労を開始していない内定段階で、企業が内定辞退者から受ける損害の発生を立証するのは、難しいものです。法的には、労働契約の解約の申し入れの日から2週間を経過することによって、損害賠償責任を負わずに一方的に退職できるため、内定辞退に対する訴訟リスクは少ないともいえます。

一方、期間の定めのある有期労働契約の場合は、注意が必要です。期間の定めのない無期労働契約と違って、いつでも解約の申し入れをすることができるわけではないからです。

そもそも新卒で有期労働契約というのは、ブラック企業の可能性があり、契約の締結も慎重に行うべきで、内定承諾書も本当に就職する気がなければ書くべきではありません。

民法では、「期間によって報酬を定めた場合には、解約の申し入れは次期以後についてすることができ、その解約の申し入れは、当期の前半にしなければならない」と規定し、労働者の一方的な解約の自由が制限されています。また、6カ月以上の有期労働契約の解約の申し入れは、3カ月前にしなければならないと規定されています。

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