眠らぬ巨獅子、人口の8倍呼び込む実力 《対決!世界の大空港1》シンガポール・チャンギ 

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小国ゆえに海外需要に照準 明快な目標がチャンギの強み

チャンギの発展は、航空会社との関係づくりとも無縁ではない。

81年にチャンギがオープンしたとき、収入の60%は着陸料など航空関連だった。が、今や非航空関連が60%と逆転した。スタッフ教育や評判の高い販売・飲食店の選別などで、旅客に多くのおカネを落としてもらう仕組みを構築。そこで手にした収益は、原油高などに苦しむ航空会社への減免措置の原資に回す。

実際、チャンギでは「米同時多発テロ以降、各航空会社に15%のリベートを提供している。SARS騒動のときは合計45%減免した」(符氏)という。航空会社の負担減が巡り巡ってまた利用者に還元されるという好循環モデルを目指している。

ただし、単純なバーゲンセールではない。符氏は「航空会社は、費用のうち5%にすぎない着陸料で空港を選ばない。重要なことは『空港側がちゃんと航空会社をサポートしている』という意思表示だ」と説く。

航空会社が路線リストラを迫られた場合でも「チャンギは残したい」となれば効果は大きい。日系航空会社関係者は「同時テロで航空需要が大幅に減ったとき、即時に手を差し伸べてくれたのがチャンギ空港だった」と振り返る。そのうえで「地元のシンガポール航空への肩入れもなく平等そのもの。世界を見ると欧州をはじめ自国航空会社を優遇するケースが多いが、チャンギでは嫌な思いをしたことがない」と絶賛する。

そのチャンギ空港で旅客の半分を占めるのは、ご存じシンガポール航空だ。同社も空港と同じく顧客満足度などの受賞は常連中の常連。全日本空輸(ANA)がタスクフォースをつくり徹底してベンチマークするなど目標に据える会社だ。だがそもそも、シンガポールはなぜ空港と航空会社がそろいもそろって奇跡的な発展を遂げることができたのか--。

シンガポール航空の周俊成(チュウ・チュン・セン)CEO(最高経営責任者)は謎解きする。「小国のシンガポールは国内線がなく、すべてが国際線。経済発展のために必要だったのが、海外需要を呼び込むハブ化だ。空港に限らず、港湾や金融、医療、ITなどもハブとして集積している」。

65年にマレーシアから独立したシンガポールは天然資源もゼロ。税金優遇などで外資・外国人を積極的に呼び込み、今や外国人旅行者受け入れ数では日本と比肩するほど。アジア太平洋地域の本部をシンガポールに置く外資系企業は多く、国際会議数は東京をも上回る(世界3位)。

シンガポール航空の利用者も約8割が外国人。国内線がないので、世界中へ路線を拡大させ、リピーターを獲得していくしかなかった。人種は多種多様のため、サービスレベルも自然と高くなっていく。それはチャンギ空港も同じこと。空港と航空会社が一体となり、ハブを目指すという目標をはっきりさせていたからこそ、ここまでこられたのだ。膨大な日本人ビジネスマン需要の上にあぐらをかいてきた日系航空会社や空港とはまるで発想が違う。

こうしたチャンギに対し、モスクワやアブダビ、南京など世界中の空港は「運営ノウハウを教えてほしい」と請い、チャンギも高収益のマネジメント事業として乗り出した。インド洋を見渡せば、欧州とアジアを結ぶドバイ国際空港が世界最大空港の建設を開始し、オイルマネーを武器にチャンギを猛追するが、「今後5年で(現在の6位から世界ベストスリー入りの)国際旅客5000万人を達成する」(符氏)と、手綱を緩める気配はない。王者・チャンギはさらに先へ行こうとしている。

(週刊東洋経済)

週刊東洋経済編集部
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