北陸新幹線はなぜ「南回り」で大阪を目指すか 新駅予定地地元も驚き、財界も盛り上がらず

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ただ、関西では北陸新幹線に期待する声があまり聞こえてこない。住民や財界、ルートから外れた自治体の反応も薄い。自分たちの生活やビジネスに北陸新幹線が関係するとの実感が湧かないのも一因だろう。北陸3県のような切迫感がないし、選挙での集票にもつながらない。それゆえに半世紀近く議論がほとんどされず、ルート決定が先送りされてきた。

京都府下ですら、誘致活動は盛り上がっていない。府庁は1990年代に亀岡市での新駅設置を推進し、7年前の関西広域連合で「米原ルート」を容認したが、この1年半、「舞鶴ルート」「精華・西木津ルート」「京田辺駅ルート」「松井山手駅ルート」と要望をコロコロ変えてきた。西田議員の個人的思い付きに振り回されている感もある。それでは府民の関心も高まらない。

「2本目の新幹線」は必要か

終点となる新大阪駅を抱える大阪府庁や大阪市役所ですら、最近は淡泊だ。

2011年ごろ、当時の橋下徹府知事は北陸新幹線の「米原ルート」を熱心に推進していたが、大阪維新の会を設立した後、ほとんど言及しなくなる。現代表の松井府知事も「早く大阪へ」と主張するだけだ。

橋下氏や松井府知事は、「南回りルート」を主導した西田議員や先述の藤井教授と激しく非難し合った過去がある。大阪府と大阪市の統合を目指した2015年の「大阪都構想」をめぐって関係がこじれた。それゆえか、今回のルート選定に積極的にかかわろうとした形跡がない。むしろ、リニアの大阪早期延伸、そして万博とカジノの誘致に精力を傾けている。

京都市役所総合企画局リニア・北陸新幹線誘致推進室によると、鉄道・運輸機構が2017年度から1~2年かけてルートの詳細調査に入り、その後、環境アセスメントに4年ほどかけることになるという。

ただ、政府と自治体、各党がバラバラの動きをしたままでは、着工はおぼつかない。京都府が費用負担を渋り続けると、他府県から不満が出てくる。

ちなみに、国交省は、北陸新幹線敦賀―京都―新大阪間の工事着手を2031年、開業を2046年と想定して試算していた。29年後に京都―新大阪間で2本目の新幹線が必要なのか。本来はそこから議論をすべきなのかもしれない。

森口 誠之 鉄道ライター

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1972年奈良県生まれ。大阪市立大学大学院経営学研究科前期博士課程修了。主な著書に『鉃道未成線を歩く(国鉄編)』『同(私鉄編)』など。

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