実際に大統領が弾劾されるには、米上下院双方での手続きが必要となり、弾劾に必要な3分の2の賛成を上院で得るのは極めて難しいため、実現する可能性は低そうだ。仮に本当にトランプ大統領が辞任に追い込まれたとしても、次の大統領選まではマイク・ペンス副大統領が大統領を務めることになる。ペンス氏は政治家としての経験や外交上の信任も厚く、むしろ市場は好感するのではないかとの声さえある。ただ、しばらくは「ロシアゲート」を巡る不透明感は市場心理にとってマイナスに働き、株価やドル円相場の重しとなる公算が大きい。
これに加えて、本件のゴタゴタにより、政策運営が滞ることも市場心理に影を落としている。本来であれば5月中旬にも予算教書が発表され、その後税制改革法案を審議し、9月末までに歳出法案の成立にこぎつけたいところである。新年度開始に間に合わなければ連邦政府機能の一部閉鎖となるリスクも浮上するからだ。
共和党のマコネル上院院内総務は16日、「いかなる税制改革も財政赤字を拡大させるものであってはならない」と述べ、バラマキ的な財政政策に異議を唱えた。同様の見解を示す共和党議員が多くみられることを考慮すれば、トランプ政権の予算案の審議は難航が予想される。加えて「ロシアゲート」によって議会のスムーズな運営が一段と困難になれば、減税は本当に出来るのか、実施されるとしていつのことになるのか、全く不透明と言わざるをえない。減税のみならず、インフラ投資や金融規制緩和など、これまでトランプ大統領が述べてきた政策の多くが進まなくなる可能性が浮上していることも、金融市場にとっては大きなマイナスである。
ドル安円高は1ドル=108円台まで
コミー・メモを受けたリスクオフにより、FF金利先物が織り込む6月のFOMC(米連邦公開市場委員会)での利上げ確率は、5月18日時点で82.5%と、1週間前の100%から急速に低下した。とはいえ、依然としてほぼ8割方利上げが見込まれている状況であり、6月のFOMCで利上げは予想通り決定される公算が大きい。ただ、VIX指数が「総悲観」を示す20を超えてくる、あるいは5月の米国の雇用統計がよほど弱い結果となるなど、株価の急落やさらなるボラティリティーの上昇がみられれば、FOMCメンバーの政策判断に影響を及ぼす可能性もあるため、注意したいところだ。
ドル円は週足一目均衡表の雲上限111円29銭を下抜けた場合、しばらく下落トレンドが続く公算は大きい。ただ、米国経済が引き続き堅調であり、大統領辞任の可能性が低い限り、「不透明感」のみで下落する下値余地は、4月17日安値の108円13銭付近が精いっぱいではないだろうか。
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