あなたの「読書」にセンスはあるか? カリスマ編集者と経営学者、「読書」を語り尽くす(上)

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普通の編集者とヒットメーカーの違い

楠木:佐渡島さんは、もともと読み手としても漫画を読むのがお好きだった?

佐渡島:学生時代は「スラムダンク」と「寄生獣」が大好きでした。かなりたくさんの漫画を読んでいましたよ。漫画でも小説でもノンフィクションでも、分け隔てなく読むほうでした。

楠木:その佐渡島さんは講談社で、ものすごく売れる漫画を作っていたわけですよね。

佐渡島:全部が売れたわけではないですが。一部は、運良く売れました(笑)。

楠木:漫画の世界で当たるというのは、普通の本の部数とはケタが違いますよね?

佐渡島:ええ。漫画の場合、ヒットすれば巻数がかけ算になるので、利益が出やすい構造です。1回50万部売っちゃうと、「50万部×20巻=1000万部の大ヒットの公式」みたいなことが起きる。つまりビジネスの構造としては儲かりやすくなっていますが、ヒットの出しやすさでいうと、小説や一般書と同じか、むしろ難しいかもしれません。普通の本の場合は1億人以上が読者になる可能性が一応はあるけど、漫画は読む習慣がまったくない、楠木先生のような人たちが一定数います。その分を差し引けば、実は漫画のほうがヒットさせるのは難しいとも言えますよね。

楠木:ご自分のことでわかりにくいかもしれませんが、普通の編集者と佐渡島さんは何が違うのですか?

佐渡島:講談社でも当てた編集者は何人もいます。でも、2回以上となると、一気に難しくなります。

楠木:なるほど。運が良ければ1回は当てることができる。

佐渡島:連続して当てるという再現性が、けっこう難しくて。再現性がないかぎり、運か実力かわからないじゃないですか。僕の前にいた再現性のある漫画編集者のほとんどは、自分が原作者になって会社を辞めたりしている。つまり、自分でストーリーを作って原作者も兼ねている人が再現性のある編集者だったということです。

楠木:再現性を獲得するというのは非常に特殊というか難しいことでしょうね。漫画というのは原作とか絵とか、いくつもの要素が折り重なってできるものでしょう。創作物として複雑性が高い。

佐渡島:僕の場合は、原作は一切書かないのですよ。ただ才能のある人を見つけて、「この人はヒットする」と思って育てると、ヒットするというパターンです。このパターンの再現性がある編集者って、少ないと思っています。

今まで僕は、作家を志望する人は、講談社とか集英社とか、会社の名前で集まってくるものだと考えていました。だけど「これからの時代は違うんじゃないか」という気がしてきています。新人がやって来る以前に、ネット上でこちらが新人を見つけられる状態になっている。自分が鍛えてきた「見る力」で、これはと思った新人のところへ行って、育てて、ヒットさせる可能性があると思ったとき、「講談社という傘の中にいなくてもいいかな」と思い始めましたね。

(構成:青木由美子、撮影:田所千代美)

※ 続きはこちら:ネット時代に、なぜ「読書」が大事なのか?

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東洋経済オンライン編集部

ベテランから若手まで個性的な部員がそろう編集部。編集作業が中心だが、もちろん取材もこなします(画像はイメージです)

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