あなたの「読書」にセンスはあるか? カリスマ編集者と経営学者、「読書」を語り尽くす(上)

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日本の漫画が海外で読まれない理由

佐渡島:僕も漫画の編集者なので、ストーリーについてはずっと考えてきましたね。会社を辞めようというときになって、漫画以外のストーリーも考え始めました。最初は「日本は作家の権利のあり方がよくないから、しっかりとマネジメントする会社を作りたいな」と思ったけれど、辞めるからには生活に困りたくないから、いくつか勝てる可能性を調べるじゃないですか。

それでまず、日本に漫画編集者はどれくらいいるかを考えてみました。たとえば講談社の新卒採用は毎年20人ほど。小学館も20人くらいですが、そのうち漫画の編集者になるのは各社5人から多くて10人くらい。

楠木:そういうものですか。

佐渡:漫画をやっている出版社は限られていて、大手の5社だけでいえば、漫画編集者は毎年25人~40人ずつしか増えていかないのです。日本全体で見て漫画がひとつの産業だとしても、500人程度の編集者しかいない。しかも全員が漫画の企画をやり続けるわけではない。たとえば僕が『モーニング』で働いていたときは45人の編集部員がいましたが、上の人たちは校了や全体のチェックをします。

楠木:少数精鋭というか、ものすごく生産性が高いですね。

佐渡島:「漫画編集者としてしっかり活躍しているのは日本で50人から100人以下だ」と思うと、講談社内にいるよりも、外に出たほうが価値は高まるかもしれない、と考えることで、迷う心を説得して、決心しました(笑)。

楠木:僕は漫画をまったく読まないので、ちょっとわからないのですが、『モーニング』というのが雑誌の名前じゃないかな、ということはわかる。

楠木教授が、書評に仮託して、経営や戦略について大切だと考えることを全力全開で主張

佐渡島:そうです。

楠木:さっきおっしゃった「バガボンド」が非常にヒットした漫画のタイトルではないかということはわかるのですが、とにかくまるで知識がない。子どもの頃からちゃんと見ていないから、吹き出しやコマという独特の構造が、自分にあまりフィットしない気がします。

佐渡島:それはすごくよくわかりますね。僕は今、自分が編集している漫画を海外に持っていきたいと思っているのですが、まだ全然、持っていけていない。「クールジャパン」と言っていますが、実は日本の漫画は海外でそうは読まれていないのです。なぜかといえば、日本の中で漫画文化が成熟し、漫画を読み慣れている人にしかわからない文法で漫画が描かれるようになってきているから。

僕はみんなが読みやすい文法で描かれている漫画にこだわりたいです。僕が編集している『宇宙兄弟』や『ドラゴン桜』は、「漫画を一切読んでいなかったけど、読んだらおもしろかった」という感想がたくさん来ています。そのような漫画でないと、一切漫画を読んだことのない、海外の人は読めないと思います。

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