もし日本が北朝鮮に核ミサイルで狙われたら 軍事的脅威の中で自衛隊の重責が増している

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海上自衛隊のイージス護衛艦と地対空ミサイルが頼みの綱だ(写真:クロ / PIXTA)

となると、議論に上がってくるのが「先制攻撃論」「敵地攻撃論」だ。日本国憲法は自衛権のみを認めているため、憲法解釈上、先制攻撃は許されていない。だが、飛んでくるミサイルを払いのけるだけでは、「防ぎようがない」と判断された場合、その発射基地を攻撃する敵地攻撃が許されるというのが、敵地攻撃論である。

ただし、仮に敵地攻撃を行おうとしても、現在の自衛隊にはその有効な手段がない。遠方のミサイル基地をたたくために有効な手段は、射程1000キロメートルの巡航ミサイル「トマホーク」だが、米国はこれを英国だけにしか供与していない。トマホークの配備は周辺地域の軍事的緊張を一気に引き上げてしまうため、米国は基本的に他国への供与について慎重な姿勢を崩していない。もし仮に日本の自衛隊による配備を認めるとしても、運搬可能な相手側のミサイルをどれだけ具体的に捕捉できるかなど、技術的な課題がある。

25万人巨大組織の問題点

週刊東洋経済は5月13日号(8日発売)で『自衛隊のカネと組織』を特集。日本の安全保障を担う自衛隊の全貌に迫っている。周辺国の軍事的膨張によって日本が脅威を感じる事案が増えてきた。それに対処するためには、やはり自衛隊が核となる。その自衛隊は現在、何ができ、何ができないのか――。

25万人を抱える大組織である防衛省と自衛隊。2017年度の防衛費は約5兆円。厳しい財政事情の中、ゆるやかに増額が続いている。今後、同盟国の軍事支出の拡大を要求している米国のトランプ政権の矛先は、日本にも向かうかもしれない。

同時に、防衛省と自衛隊は不祥事が絶えない組織でもある。最近では南スーダンでのPKO(国連平和維持活動)に関する「日報」をめぐり、虚偽報告が起きた。軍事的組織において、虚偽の報告は深刻な問題だ。

また、自衛隊を人と組織という点から見ると、日本企業と同じような構造問題を抱えている。それは、ミドルマネジメント層が余り、若年層が薄いという構造だ。自衛隊は隊員定数を満たしておらず、特に現場の最前線に立つ下位階級(とくに「兵」)の隊員が不足している。さらに、防衛省の背広組(内局)と、自衛隊の制服組との対立から、効率的な組織運営ができていないという点もつねに指摘される。自衛隊にかかわる問題が、急浮上している。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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