2011年2月、独立リーグの徳島インディゴソックスの合同自主トレに参加した中村は、当時の監督で近鉄時代の同僚でもある森山一人に「もっと野球を楽しもうと思う」と話した。その裏にあるのは、こんな思いだった。
「気持ちだけでも楽しくやることで、何か吸収することがあるかな、と。歳も歳だけど、野球をもっと追求したい一心だった」
シーズンがすでに開幕していた11年5月、中村はDeNAと契約を結んだ。新天地でも、できるだけ野球を楽しもうと考えている。
「野球選手は前向きじゃないと、5年くらいで潰れてしまう。一つひとつを細かく考えなきゃいけないスポーツだけど、基本的にはネガティブになった時点で出世しない世界。何があってもポジティブにいく。打てなくても、切り替える。野球って、メンタルかなと思います」
「成功できればいいな」という感覚
よく言われる話だが、打者は10打数で3本のヒットを打てば一流と評価される。それぞれの考え方が色濃く表れるのは、打率3割をどうとらえるかだ。
「どの仕事もそうだけど、『成功する』と思っても、失敗するときもあるでしょ? 『野球は7回失敗するスポーツ』だと割り切ってやれるか、どうか。僕は『7回も失敗するんだ』と思って、『3回打てたらいい』という感覚。『成功しなくちゃいけない』ではなく、『成功できればいいな』という感覚でできれば、楽しめるんじゃないかな。3回を楽しむか、7回の失敗に尾を引くか。そこで人間の価値は変わってくると思う」
毎年70人から80人近く球界に入ってくるすべての選手が、プロで活躍できる素質を備えている。しかし、夢を実現できるのはほんの一握りだ。成功と失敗の境目はどこにあるのだろうか。
「運もあるんですよ。すごくレベルが高くても、プロの世界に行けない人を何人も見ました。何か理由があるのでしょうね」
運は自分でつかむもの、と言われる。中村が自身について「運が強い」と感じるのは、チャンスの打席だ。
「『ここだ』というところで、『打てる』と思いますから。でも、打てないヤツはいろんなことを考えていますよね」
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