トランプ支持者はオバマをなぜ「憎悪する」か

ネットの「オバマ陰謀論」を本気で信じている

黒人出身ながら、完璧な英語と輝かしい学歴、そしてよき父の顔を持つオバマ前大統領の存在は、アメリカ社会で“白いゴミ”と呼ばれる白人労働者たちを大いに刺激した(撮影:JMPA)
「黒人」「アジア人」「白人」――。民族意識の強いアメリカ社会では、肌の色の違いに基づく分類が大きな意味を持つ。
ただ、白人のすべてが「WASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)」であるわけではない。18世紀に移民としてやってきたスコッツ=アイリッシュ系の白人たちは、歴史的に貧困の中に生きてきた労働者階級だ。奴隷経済時代には日雇い労働者として働き、近年は機械工や工場労働者として生計を立てている。彼らは、アメリカ社会で“ヒルビリー(田舎者)”と呼ばれている。こうした白人労働者たちの存在を無視して、ドナルド・トランプ大統領誕生の背景を読み解くことはできない。
アメリカの繁栄から取り残されたヒルビリーとは、いったいどのような人たちなのか。なぜ彼らは、トランプを支持し、オバマを目の敵にするのか。『ヒルビリー・エレジー』著者であり、自身もヒルビリー出身ながらイェール大学のロースクールを修了し、現在はシリコンバレーで投資会社の社長を務めるJ.D.ヴァンス氏が語る。
※第1回はこちら:「トランプを支持する『負け犬白人』たちの正体」

 

投票権を持つ白人保守層の約3分の1が、バラク・オバマ前大統領はイスラム教徒だと信じている。ある調査では、保守層の32%が、オバマは外国生まれだと回答し、19%は、どこで生まれたかわからないと答えた。つまり、白人保守層の過半数が、オバマがアメリカ人であることすら疑っているのである。

実際に私は、知人や遠い親類が、オバマについて、イスラム原理主義者とつながっているとか、裏切り者の売国奴であるとか、遠く離れた世界の端で生まれたなどと語るのを、たびたび耳にした。

黒人オバマと白人労働者の境遇は、天と地ほど違う

ただ、“アメリカ人と認められていない”オバマと私が大人になるまでに接してきた白人労働者階級“ヒルビリー”たちとを比べると、そこには天と地ほどの差がある。

オバマのニュートラルでなまりのない美しいアクセントは聞き慣れないもので、完璧すぎる学歴は、恐怖すら感じさせる。大都会のシカゴに住み、現代のアメリカにおける能力主義は、自分のためにあるという自信を基に、立身出世を果たしてきた。もちろん、オバマの人生にも、私たちと同じような逆境は存在し、それを自ら乗り越えてきたのだろう。しかしそれは、私たちが彼を知るはるか前の話だ。

オバマ大統領が現れたのは、私が育った地域の住民の多くが、アメリカの能力主義は自分たちのためにあるのではないと思い始めた頃だった。自分たちの生活がうまくいっていないことには誰もが気づいていた。死因が伏せられた10代の若者の死亡記事が、連日、新聞に掲載され(要するに薬物の過剰摂取が原因だった)、自分の娘は、無一文の怠け者と時間を無駄に過ごしている。

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