武田鉄矢「読書に実用性だけ求めても空しい」 世の中は確信に至る材料を集めすぎている

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学びっていうのは、その武道家が言うところの確信があるのとないのとでは成果に大きな差がある。特に若いビジネスパーソンに見てもらいたい映画があります。学び方って何かというのを説明しやすい作品が2本。1つ目はジャッキー・チェンの『ドランクモンキー酔拳』。むやみにカネのかかってない作品なんだけど、この『酔拳』には学びの普遍性が込められてる。

ジャッキー・チェン扮するどうしようもないカンフー道場のバカ息子が、お父さんの命令で酔えば酔うほど強くなる酔拳の極意を極めた老人に弟子として預けられる。ところがジャッキーはこのおじいさんを見るうちに、こいつはただのアル中じゃないかとしか思えなくなる。それでジャッキーがお酒を買いに行くのが面倒くさいから、お酒に水を入れて水増ししちゃうんです。そのせいで突然襲われた敵に酔拳が使えなくて老人が敗れる。

そのときジャッキーが「先生にはすまないけど、繰り返しの、基本の練習ばかりで面白くないんだ」と言ったら、「いや、お前はもうすでに酔拳会得のための修行をしてるんだ」と言いながら酔拳を披露する。

そのとき、魅せられたんです、ジャッキー・チェンは。そしてそのアル中のじいさんが酔拳の達人に見えた瞬間、ジャッキーは酔拳の達人になる。つまり先生を疑うと技術も何も流れ込んでこない。しかし、この人の武道は最強なんだと思った瞬間、誰にも負けない酔拳という技が流れ込んでくる。

これが学びの基本なんじゃないかな。

人にもまれないかぎり人は強くなれない

もう1つの映画は『燃えよドラゴン』。ブルース・リーの肉体を見て彼の筋肉について考えてみてほしいんだ。とある人が言った言葉ですが、「ブルース・リーの肉体は4大陸で最高にカネを稼いだ肉体である」んだって。

確かにアジア人、ヨーロッパ人、アフリカ人、アメリカ人、どの大陸の人が見ても彼の肉体は美しいよね。その理由はおわかりだと思うけど、ブルース・リーの筋肉の入り方って、筋繊維の一本一本がとても細かいんだよね。細くてしなやかで強靭な繊維が一本一本寄り集まって一つひとつの筋肉を形作ってるのが伝わってくる。

なぜかというと、ボディビルみたいに器械やウエートで作ってないから。全部人間相手に練習したからああいう美しい筋肉ができる。ボディビルだと太くなるけど、人間相手だと細やかに筋肉が割れてゆく。可動域が広く、タフになる。あの映画の中で彼は言う。「私を見るな。私が見るものを見なさい」、すなわち「人としてしなやかであれ」と。人にもまれないかぎり人は強くなれない。

昨今は資格ブームだったり、「10日で~できる」とか、「お金持ちになる100の方法」などとメソッドをうたった本が書店にあふれかえっております。でも、そういう本ってメソッドはあっても知識はない。メソッドばっかりで人生を過ごしていくとむなしい。

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