元NHKキャスターが小児科医を目指すワケ 医学部に通いながら学費のために仕事も継続

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そこは自分が生まれ、祖父が最期を過ごした病院であり、小島さんは「何かの縁」を感じたという。この病院は現在、医師不足のために幾つかの科で、地域の患者を受け入れることができない。例えば、産婦人科は、婦人科のみでお産は扱わず、小児科も常勤医が1人であるため、小児の入院には対応できない状況だ。

医師国家試験に合格した後に、生まれ故郷の公立病院に勤務することが決まっていることについて小島さんは、「県など自治体の奨学金もありましたが、どこに勤務するのか分かりません。しかし、病院独自の奨学金であれば、異動で県内各地を回るという可能性はなく、ずっと同じ場所で働き続けられます。すでに結婚して、子どももいるので、勤務地が決まっていて、最低6年間変わらないというのも、将来の人生設計を立てる上でメリットです」と前向きだ。

医療法人社団ナイズ「キャップスこどもクリニック西葛西」で実習する小島さん(左)と、ナイズの白岡亮平理事長(右)

さらに、小島さんはこう続ける。

「私が医師になるのは37歳です。そのころ、息子は小学4年生になります。息子の教育費もかかってきますので、奨学金を利用するメリットは非常に大きいです。また、私の生まれ故郷の住民は、お産をして、子どもが入院するようなことになれば、わざわざ車で30分から1時間をかけて、時には県外まで行かねばなりません。地元出身者として、このような事態になっていることを残念に思っていて、私が医師として役に立てればと思っています」

妊娠・出産を機に、小児科医療の課題見えてきた

小島さんは日本の医療について、「とても素晴らしい面が多いのですが、今後、真剣に向き合わなければいけない課題もあります」と指摘する。小島さんは、長男が出産直後に手術を受け、NICUに入院すると、母乳を持って毎日、NICUに通う生活を1カ月間経験した。そこでは、今まで自分が知ることがなかった世界が、医療の現場にあることに気付かされた。一秒一秒を懸命に生きようとする患児たちと、その命を守ろうと奮闘する医師、看護師、助産師たちだ。

小島さんは、こう話す。

「日本の乳児死亡率は、世界でもダントツの低さで、難病を抱えても、たくさんの赤ちゃんの命が助かっているのは事実です。しかし、これは裏返せば、病気や障害を抱えて生きていくお子さんと、その親御さんが、とても多い国だということです。NICUからGCU(回復支援室)、さらには小児病棟と何年も入院しているお子さん、退院しても自宅で在宅医療を受けているお子さんもいます。そういったお子さんをどう支えていくかが、重要な課題だと思います。医療だけではなく、学校現場や福祉・介護制度、お子さんの看病や介護をしながらでも親御さんが働ける社会環境の整備など、さまざまな分野で解決すべき課題があります」

小島さんは将来、小児科に進みたいと考えている。

「自分の子育て経験や、アナウンサーとして毎日、多くの人と会って話を聞いたり、難しいニュースや話題などを分かりやすく伝えたりするという今の経験を、小児科医師となり、親御さんとコミュニケーションをする上で、生かせればいいなと思っています。今、子育てと医学生を両立させているので、仕事をする間にも、突然の発熱で保育園から呼び出しが来て、迎えに行かなければならない親御さんの気持ちがよく分かります。現代のママは、大変なストレスを感じていると思います。お子さんの病気を診ながら、そうした親御さんの心のケアもできる医師になれればいいなと考えています」

(文・君塚 靖)

「CBnews」編集部

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