「円の先高観」がまったく消えない本当の理由 「不純な利上げ」では「ドル買い」にはなりにくい

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もちろん、トランプ大統領が口先でドル安を望んでも、経済・金融情勢が明らかに金融引き締めを求める状況にあれば市場はドル買いを進めるだろう。しかし、現実にはそうなっていない。

前述したように、トランプ大統領の利上げを阻害するような発言を受けて、市場は素直に米金利の低下とドル相場の下落で反応した。一見当たり前の動きに思えるが、冷静に考えればこれは不思議な話でもある。本当にFRBの金融引き締めがインフレ防止に必要な政策運営と信じられていれば、これを政治介入で止めようとすればインフレ期待は暴走し、イールドカーブも長期金利主導でスティープ化、為替もドル高になるのではないか。結局、そうならなかったのは金融市場が引き締めの必要性を信用していないからにほかならない。

確かに今年に入ってから市場の利上げ織り込みは進んでいるが、それは「FRBがそこまで言うなら」という受動的な織り込みであり、経済・金融指標の力強さを受けて市場が能動的に織り込んだものではない。言うまでもなく健全なパターンは後者である。

2月以降、人が変わったようにイエレン議長が強気な情報発信に努めている理由は定かではない。しかし、議長自身を含む民主党政権に指名されたFOMC(米連邦公開市場委員会)メンバーが入れ替えられていく前に、正常化を極力進めておきたいという政治的な事情があるとの思惑は多い。
「低金利が好き」と率直に言ってしまう大統領の政権が指名するメンバーの下で正常化が進むとは思えないため、一理ある指摘ではある。

そのような事情を勘案したうえで、いまや市場参加者が米金融政策を評価する視点は利上げの「回数」ではなく、その「動機」に移っているものと思われる。しかし、不純な「動機」の利上げに市場は反応しない。現に、連続利上げに加え、バランスシート縮小議論まで加わっているのにドル買いは盛り上がっていない。先回りして買われすぎたという面もあろうが、そもそも利上げが続くと思われていないのだろう。

真っ当な利上げ反対論を展開するミネアポリス連銀総裁

そうした現状のFOMCにあって、一人気を吐いているのがミネアポリス連邦準備銀行のニール・カシュカリ総裁である。同総裁は唯一、3月15日の利上げに反対票を投じた。カシュカリ総裁は反対票を投じた理由を『なぜ、私は反対したのか(Why I Dissented)』と題したエッセーで説明している。エッセー冒頭では「要約すれば、デュアルマンデート(物価の安定、雇用の最大化)の達成を判断するデータが前回会合からまったく変わっていないため、私は反対票を投じた」との旨が述べられている。

エッセーで示された反対理由は8つほどあるが、特に重要と思われたのが①物価の責務達成にはまだ距離があること、②完全雇用に到達していないと思われること、といったデュアルマンデートに関する論点である。いずれも真っ当な理由であり、おそらくは「経済的な正しさ」ではなく「政治的な正しさ」を優先して投票しているFOMCメンバーには耳の痛い論点かと思われる。

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