街の菓子店が「きれいごと」経営で伸びる理由 いい会社は「八方よし」の経営を行っている

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もちろん、無条件に日本的経営を持ち上げるわけではありません。種々の批判があることも承知していますし、これだけ外部環境が変化したなか、昔の日本的経営に立ち返ることなど現実的ではないでしょう。いま必要なのは、日本的経営の優れた部分を継承し発展的にアップデートした新しい経営モデルです。

そこで私は、近年のCSV重視の動向などもふまえて、よりよい資本主義をつくるための「合言葉」を思い切って提案してきました。それが、「八方よし」の経営です。

近江商人の「三方よし」とは「売り手よし、買い手よし、世間よし」、つまりかかわる人全員が幸せになることがその本質でした。一方、CSVで重要なことは、企業と社会どちらにとっても利益となる、「共通価値」を創造することにあります。

そこで、双方のよいところを取り入れ、
1:三方よしの「三方」を「八方」にしてみましょう
2:その八方すべてのステークホルダーとの間に「共通価値」を見いだしましょう
というのが私の提案です。

八方よしとは、①社員②取引先・債権者③株主④顧客⑤地域(住民・地方自治体など)⑥社会(地球・環境など)⑦国(政府・国際機関など)⑧経営者のステークホルダー全員と、どちらにとっても利益となる「共通価値」を創造することにあります。

「八方よし」経営では、人件費は“コスト”じゃない

いきなり「共通価値」といわれても、なんだかピンとこないかもしれません。はじめに、その真逆にあたる「利益相反」の関係から考えてみましょう。利益相反の関係とは、一方が利益になると、他方が不利益を被る関係のことをいいます。

たとえば、ある企業が利益の最大化だけを目的にしたとします。すると社員の給与は「コスト」と捉えられ、人件費は少ないほうがよくなる。取引先であれば、価格(製造原価)を下げるように過度に圧力をかける。顧客に対しては、リピート率を無視して質の低い商品を高値で売りつける。

地域、社会、国(政府)に対しても同様です。地域負担金、環境負担金、法人税などを「コスト」と考えれば、できるだけ支払わない経営が優れた経営ということになります。これらは経営者の立場に立った場合の利益相反ですが、どの立場であろうとも、金銭的価値だけを優先すれば、自分以外のステークホルダーはみな「コスト」として捉えられてしまうのです。

一方、企業がすべてのステークホルダーとの間に「共通価値」を築く「八方よし」では、売り手である経営者、社員、取引先・債権者、株主は、みな「コストの発生源」ではなく「付加価値を分配する対象」と考えます。たとえば社員に対しては、決算書のなかの「人件費」を費用項目から外して収益額を出し、その分配先として人件費を定義する。そうすると、経営者と社員は「収益を分配する対象」として同じ方向を向くことができます。取引先・債権者・株主も同じことです。

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