「ブルゾンちえみ」が圧倒的な支持を得た理由 すべては計算し尽くされた打ち出し方だ

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第2に、見た目が良かった、ということです。ブルゾンさんがキャリアウーマンのネタを演じるときには、ブリリアンというイケメンコンビを従えて、「ブルゾンちえみ with B」というユニットとして出ています。ピン芸人なのに複数で出てくる、というこのスタイルは画期的な発明でした。

ブルゾンさんがこの形でネタを始めたのは、アメリカの映画、ドラマ、音楽が好きで、その世界観を表現したかったからだと推測されます。アメリカの女性ソロアーティストのミュージックビデオでは、1人の女性が大勢の男性を従えているという構図がしばしば見受けられます。ブルゾンさんの中では自分の理想とする画(え)が見えていて、それを再現するために2人を引き連れるという形を選んだのだと思います。

さらに言えば、「ピン芸人なのにトリオ」というこのスタイルは、テレビの縦横比が従来よりも横に長いハイビジョンサイズ(16:9)になった今の時代にちょうどマッチしていました。ハイビジョンのモニターで1人の芸人が真ん中に立っているだけだと、両サイドのスペースが大きいため、どうしても寂しく見えてしまいます。でも、実質的にトリオとして出ているブルゾンさんにはその心配がありません。舞台を大きく使って3人で動き回ることで、ハイビジョン時代に対応したパフォーマンスを見せることができたのです。

第3の理由として、最初の売り出し方がうまかった、ということが挙げられます。実は、ブルゾンさんは1月1日放送の「ぐるナイ!おもしろ荘2017」に出た時点で、視聴者やテレビスタッフの誰もが「これは売れる!」と確信できるほどの逸材でした。あとは各局からお呼びがかかって、テレビにどんどん出ていけば、それだけでもある程度のところまで人気が出ることは想定できました。

意外に思われるかもしれませんが、実は最初の頃、ブルゾンさんはそれほどたくさんテレビに出ていたわけではありませんでした。1月から2月ぐらいまでは、出発点となった「ぐるナイ」と、同じ局の人気番組「行列のできる法律相談所」を中心に、ごくごく限られた番組に出ていただけでした。オファーはもっとたくさんあったということは容易に想像できますから、おそらく意図的に露出を抑えていたのだと思います。この作戦が奏功しました。

同じネタを何度もやってすり減ってしまう前に

インパクト抜群のブルゾンさんの芸は、1度見たら忘れられなくなります。でも、いろいろな場所で何度も何度もネタを見せてしまえば、その分だけ消費されるスピードも速くなってしまいます。そこで、ゴールデン(プライム)タイムの人気番組である「行列のできる法律相談所」や「しゃべくり007」など、限られた番組だけに出ることで希少性を高めて、1回1回のインパクトを大きくすることを選んだのだと思います。実際、それらの番組に出たときには、ブルゾンさんは毎回大きな反響を呼んでいました。

バラエティだけに出続けて同じネタを何度もやってすり減ってしまう前に、ドラマという次のステージに移行することができたのも幸運でした。もともとブルゾンさんは、架空のキャリアウーマンを演じる「なりきり芸」を得意としていますから、演技もお手のもの。新人とは思えない演技で多くの視聴者を驚かせています。ドラマに出たことで彼女のタレントとしての可能性はますます広がっています。

こうやってビジネス的な視点で考えてみると、ブルゾンさんが売れたのは単なる偶然ではありません。ブルゾンちえみという商品には、特定の層に対する強い訴求力があり、外見的な魅力があり、売り出し方もうまかったから売れたのです。ブルゾンさんは文字どおり一流のキャリアウーマンとして、理想的な形で自らの「キャリア」を形成しています。

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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