米国の北朝鮮「先制攻撃」、今後ありえるのか 巨大原子力空母が半島周辺に来た意味は?

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となると、現時点での米国にとっての現実的な選択肢は何だろうか。あるとすれば、過去60年間、朝鮮半島のもろい平和を守ってきた抑止力への依存以外ほとんどないだろう。にもかかわらず、トランプ政権はトランプ大統領の選挙戦中のスタイルを引きずって、北朝鮮の「脅し」を抑えるために、米国が何らかの手を打つかのような見せ方をしてしまった。

では、米国が原子力空母カールビンソンを朝鮮半島に向かわせた目的は何だろうか。米国の政府関係者によると、最大の目的は北朝鮮による「過激な行為」を思いとどまらせることに加えて、日米、そして米韓関係の強化にある。米海軍と日本の海上自衛隊はすでに親密な関係にあり、カールビンソンの存在はさらなる作戦での協力を意味する。米国防総省の最優先事項は、日米韓3者間の本格的な協議を開始し、協力強化を図ることだ。

トランプ政権による北朝鮮政策は?

もう1つ、中国にメッセージを送る目的もある。中国は、自国の影響下にある(と中国が考える)領域における米軍の存在を不満に思っているが、米国は、もしそれが不服であれば、北朝鮮による核兵器開発を中国から働きかけるべきだというメッセージを送っているのである。

トランプ大統領は就任以降、バラク・オバマ前大統領の「北朝鮮問題が最大の頭痛の種になる」という個人的な警告に基づいて、北朝鮮問題に焦点を当ててきた。そして、新政権はこの2カ月間、北朝鮮政策の見直しを行ってきたのである。その結果は、前述のとおり、過去20年間の政策を継続するしかないということだった。

「先制攻撃騒ぎ」が収束した現在、トランプ政権は、北朝鮮に対する制裁の拡大と、中国政府からの圧力の両輪で北朝鮮に対抗することを考えている。この2つの政策を通じて北朝鮮を「カゴ」に閉じ込めることが、朝鮮半島における長期的な非核化においては最も有効な方法であることは間違いないのである。

ピーター・エニス 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Peter Ennis

1987年から東洋経済の特約記者として、おもに日米関係、安全保障に関する記事を執筆。現在、ニューズレター「Dispatch Japan」を発行している

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