日本が貢献した「イスラム紛争終結」の舞台裏 ミンダナオ和平プロセスは成田から始まった

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ミンダナオ島南西沖スールー諸島の民族衣装で着飾った少女たち。イスラム文化が最も色濃い地域として知られる(筆者撮影)

フィリピンでもイスラム教徒に対する警戒感や差別意識は根強い。マニラで「バンサモロに通っている」と言うと、「なぜそんな危ない所に行くのか」「首を切り落とされないのか」と真顔で心配されたりする。

しかし、イスラムの人々は押し並べて穏やかで親しみやすく、ごく一部の集団を除いて排他的な攻撃性はない。MILF幹部も「戦後の焼け野原から世界有数の経済大国になった日本、規律を重んじる日本人に学びたい」と考えており、当地のイスラム教徒と日本人は相性が良いのだと思う。

ミンダナオ和平は当初、アキノ前大統領の任期末の2016年に自治政府が実現するはずだったが、反対派議員などの妨害で政治プロセスが停滞した。これを引き継いだドゥテルテ大統領は「フィリピンのトランプ」などと揶揄されるが、実際はまったく正反対の“マイノリティびいき”であり、地元ミンダナオのイスラム勢力とも良好な関係にある。

「歴史の間違いを正し、任期中に必ず最終和平を実現する」と繰り返し言明し、2022年までにバンサモロ自治政府を発足させることが期待される。国民の支持率8割という圧倒的人気を追い風に一気に事を運べば、展望が大きく開けるだろう。

和平が実現すればノーベル平和賞もの

2016年のノーベル平和賞は、左翼ゲリラとの内戦を終結させた南米コロンビアの大統領に贈られた。世界が融和と連帯ではなく、憎悪と対立に傾きかけている中、少数派のイスラム教徒に高度な自治権を認めて紛争を解決し、共存共栄を目指すミンダナオ和平プロセスが成功すれば、間違いなく平和構築のモデルケースになる。その時はミンダナオ和平がノーベル平和賞候補に挙がってもおかしくない。

日本の隣国というと中国、韓国、北朝鮮にばかり注目が集まるが、もうひとつの隣国フィリピンとの結び付きを知ると、また違った日本の立ち位置が見えてくるのではないだろうか。

中坪 央暁 ジャーナリスト

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なかつぼ ひろあき / Hiroaki Nakatsubo

毎日新聞ジャカルタ特派員、編集デスクを経て、国際協力分野の専門ジャーナリストとして南スーダン、ウガンダ北部、フィリピン・ミンダナオ島、ミャンマーのロヒンギャ問題など紛争・難民・平和構築の現地取材を続ける。このほか東ティモール独立、インドネシア・アチェ紛争、アフガニスタン紛争などをカバーし、オーストラリアの先住民アボリジニの村で暮らした経験もある。新聞や月刊総合誌、経済専門誌など執筆多数。

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