セガは任天堂を相手に善戦したことがあった ゲームの未来を変えた覇権戦争の内幕

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それが結果的にはアメリカでの大成功に繋がるのだが、特別なヒットにはならなかった日本側からすればまったくもって面白くない。ニンテンドー・オブ・アメリカを任天堂社長である山内氏の義理の息子の荒川氏が務めており、心理的な距離が近かった状況とは対照的であるし(これが無条件によかったわけでもないが)、最終的にその事が(SOAにとって)悲劇に繋がっていく。

その後もカリンスキーはマーケティングの腕を見事発揮してみせる。ソニックの2を印象づけるために『ソニック2ズデー』としてさまざまなキャンペーンを開催。世界初の製品の世界同時発売など刺激的かつ効果的な策を次々と打つ。セガに対してあまり表立っては抵抗してこなかった任天堂も、ついに大胆な値下げを敢行し、セガは「反任天堂同盟」を各企業と結び、久夛良木健がソニーでその存在感を示し始め──と群雄割拠/本格的な覇権戦争の時代へと移行していく。

同時に、セガ/カリンスキーはどんどん策を打つ。電話回線の代わりにケーブルを使った「セガチャンネル」というゲームオンデマンドサービスを立ち上げようとし、ソニックを主人公としたアニメを企画し、映画とゲームの融合が進みつつある状況に対応するためマルチメディアスタジオを開設するように促し、ディズニー作品のゲーム化権を獲得し、VRゴーグルを開発し──とよく言われるように、セガはすでにこの時からいくつもの面で時代を先取りしすぎていたのだ。

しかし、セガの凋落もここから始まるのであった……。

おわりに

『セガ vs. 任天堂――ゲームの未来を変えた覇権戦争(上)』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

無残なる凋落の過程、ソニックの誕生秘話、めちゃくちゃたくさんあったセガ日本本社とカリンスキーの確執──などどれも興味深い内容なので、是非読んで確かめてみてもらいたい。セガ、その栄光と凋落の物語として、巨大な敵に立ち向かうビジネス戦略の本として、ゲーム業界裏話として、いくつもの側面で楽しませてくれる一冊だ。──とここで、以下ちょっと余談。

セガと対立する任天堂側に大物感を出して盛り上げようとしてなのか、任天堂陣営のキャラを立てすぎている面があるようにも思うが、それが(客観的とは言い難いが)またおもしろかったりする。たとえば任天堂のトニー・ハーマンからみた任天堂の開発者らに対する言葉は次の通り。

“彼らはまさに異次元レベルの頭脳の持ち主で、その能力には毎回畏怖を感じてしまうほどだった。中でも宮本は格別な存在で、彼の目には明らかに常人とは異なる世界が映っており、ゲームを通じて他人を自分の記憶に招じ入れようとしているように思えた。”

『山内がスピーチをしている間、ハーマンは宮本と他の魔術師たちにじっと目を注ぎ、彼らの目を通して世界を見ようと努めていたが(……)』とか、宮本茂さんを筆頭として褒めすぎということはない人たちだけれども、まるで異能力者みたいな扱いで笑ってしまった。

冬木 糸一 HONZ

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1989年生。フィクション、ノンフィクション何でもありのブログ「基本読書」運営中。 根っからのSF好きで雑誌のSFマガジンとSFマガジンcakes版」でreviewを書いています。

 

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