セガは任天堂を相手に善戦したことがあった ゲームの未来を変えた覇権戦争の内幕

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また、事実を元にしているとはいえ、矛盾した証言は著者がもっともそれらしいとする解釈に基づいて一本化して描いているし、複数の場所において交わされたやりとりをひとつの場所で要約して描写したりといった手法が使われている。『すべての会話にはもとのやり取りに込められた意図や内容を忠実に反映させたつもりである』と著者は言うものの、あくまでも事実に則った"娯楽作品"として楽しむのが安全だろう。

さて、とはいえおおむね発言/行動については確かであろうという前提のもと読むと、これがセガや任天堂におけるアメリカ側の視点、経営者や開発者などのメイン・プレイヤーの証言が多く新鮮なエピソードに溢れている。たとえば当時ファミコンで市場の80%を牛耳る任天堂に対して、セガはジェネシスでもってどうやってその地位を奪いにかかるのか。これについてカリンスキーは当初、SOA独自対抗策として、4つの明確な項目と目標を提案してみせる。

任天堂を倒すためのSOA独自策

1. ゲーム:任天堂に対して完全な差別化を図れるゲームで差をつける。具体的にはマリオに対抗するセガの顔『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』をハードに同梱し無料で提供する。2. 価格:3000万世帯が購入しているファミコンに対抗するため、価格を大きく下げる。3. マーケティング:子供層を奪うのは諦め、最先端でクールなブランドとしてイメージを売り込み、ティーンや大人を対象とする。4. 開発:日本でゲームをつくるとどうしてもアメリカでは弱いので、アメリカを最初から対象としたゲームを開発する必要がある──と戦略のお手本のようなシナリオだ。

結果だけみると、こうしたすべての項目がアメリカでは有機的に結びついて機能しているように思える。ソニックはマリオとは別の顔として機能し、無料で同梱されたソフトのおかげでアメリカではソニック旋風が吹き荒れた。マーケティングでは任天堂との対決姿勢を前面に押し出し、ファミコンを子供のおもちゃと位置づけ批判的に提示し、ソニックvsマリオをイメージ付けるだけでなく、数々のCM──セールスマンがスーパーファミコンを売りつけようとしているが、顧客の方はジェネシスから眼が離せないでいる──を作るなど、挑発的な施策を打っていった。

“コンシューマ・エレクトロニクス・ショーでも、セガは超クールな青いハリネズミとマリオを公衆の門前で競わせるという大胆な行動に出たが、任天堂は何の反応も示さなかった。セガはこの比較広告的な手法を全米各地のキャンペーンでも実施したが、それでも任天堂は何の対策も講じなかったのである。その後のクリスマス商戦の期間中、セガは攻撃レベルを一段上げて中傷広告を流したり、マスコミに数字を誇張して伝えたりし始めた。”

これの凄いところは、挑発的なCMの制作などについては、却下される可能性から日本側に内緒で進めていたことで、SOAとセガ日本本社は事実上"別の組織"として機能していることだ。

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