原油価格は再び「暴落」の懸念が出てきた OPEC諸国はこのままだと苦境に陥る

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このように考えると、現在の原油市場では、50ドルを割り込むと買いたい向きがいる一方、53ドル以上になると売りたい向きが多いといえる。その結果、47ドルから55ドルのレンジ(ボックス)相場を形成しているわけだが、このレンジをはみ出すには相応の材料が必要になろう。そのひとつが米国内の産油量の動向であり、もうひとつがOPEC減産の延長であろう。

EIAは、2017年の米国内の原油生産見通しを前年比33万バレル増の日量921万バレルに上方修正している。2月時点では前年比10万バレル増の予想だった。また2018年については、前年比52万バレル増の日量973万バレルと、2月時点の予想の55万バレル増から下方修正している。この見方の評価は難しいが、いずれにしても、産油量は増加するとの見方に変わりない。

一方、原油需要の増加幅については、2017年は日量21万バレルと2月予想の26万バレルから下方修正し、2018年は33万バレルから38万バレルに上方修正している。要は、今年、来年とも米国の石油需要はある程度堅調に推移するとみていることになる。しかし、産油量の増加が需要増を上回ることを考慮すれば、少なくとも米国内の需給環境の改善は見込みづらい。

このような見通しの中、一部のシェールオイル企業は55ドル前後でも十分に採算が合うため、先物市場で売りヘッジを入れる用意があることを考えると、55ドルを明確に超えていくのは、現実的にはかなり難しいともいえる。一方、OPEC加盟・非加盟国による7月以降の減産延長は、現状では不可欠になりつつある。当初はOPEC減産により、年前半にも需給バランスはフラットになるとみられていたが、現時点では難しいとの見方が出始めている。また市場では、OPECによる減産延長をすでに織り込んだとの見方もあり、そうであれば、上値を追えるかといえば難しいとの見方になるだろう。

年末に向け1バレル=35ドルまでの下落シナリオも

もし、現状の水準の原油価格が続くと、最終的にはOPEC加盟国は苦境に立たされ、財政赤字が膨らむことになる。一方で、米国のシェアは着実に拡大することになる。この結果、世界の石油市場での競争力の差が、生産シェアの差となって表れることになる。原油価格を高値で維持するためには、OPECは劇的な量の減産を行うか、再び原油相場をいったん大きく下げさせてから戻すしかないだろう。しかし、米国のシェールオイルの生産コストが着実に低下する中、生産者は採算が合うのであれば、多少の低い原油価格でも生産を続けるだろう。

この結果、原油市場における新しい秩序が形成されていくことになるのだろう。こう考えると、現時点で原油価格が上昇に向かうとの絵は描きづらくなってきた。上昇トレンドに回帰するには、4月に55ドルを明確に超えることが最低条件である。4月の下値は50ドル前後に切り上がると考えているが、もし55ドルを突破できないようだと、今年末に向けて、35ドルまでの下落シナリオへの転換を検討することになろう。

江守 哲 コモディティ・ストラテジスト

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えもり てつ / Tetsu Emori

1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事入社。2000年に三井物産フューチャーズ移籍、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスのチーフファンドマネージャーに就任。2015年に「エモリキャピタルマネジメント」を設立。会員制オンラインサロン「EMORI CLUB」と共に市場分析や投資戦略情報の発信を行っている。2020年に「エフプロ」の監修者に就任。主な著書に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。

 

 

 

 

 

 

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