JR北海道の経営危機を救う「5つの解決策」 危機の原因は不祥事や災害でなく「構造的」だ

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問題は、国鉄民営化でJR北海道が発足した1987年の時点にさかのぼる。

1つ目は、民営化にあたってJR北海道が本業における営業赤字に陥るのは当初から想定されていたということだ。その赤字補てんのため、約6800億円の経営安定基金が設定され、その利回りで収支がトントンになるように経営がされてきた。だが、発足当初は7.3%などという高い利回りで計画され、事実上のその利回りが保証される仕組みがあった。だが、現在は低金利時代を反映して運用益は半減している。その他の補助金制度等を加えても赤字補てんには十分ではない。

2つ目は、車両の老朽化だ。これは高速化による車両の傷みが問題になっている特急用ディーゼル車両だけではない。ローカルの普通列車用のディーゼル車でも、例えば旧国鉄時代から使われているキハ40形はもちろん、民営化の直前に導入されたキハ54形にしても老朽化が著しい。だが、利用率の低迷している路線では、新車を導入することは不可能に近い。

3つ目は、地上設備の問題だ。北海道の鉄道インフラは、明治の開拓期以来の設備を使い続けている区間が多い。そのために、トンネルにしても、橋梁にしても老朽化が著しい。そこを「だましだまし」補修して使用しているというのが実情であり、安全を考えると大補修をしなければ維持できない一方で、その費用が捻出できないという苦境にある。

一極集中やバブル崩壊も影響

以上の問題に加えて、現在の北海道が抱えている構造的な問題も無視できない。

4つ目は、人口構成の変化だ。北海道も過疎高齢化や東京一極集中の激しい波に揺さぶられているが、これに加えて北海道の場合は札幌圏への一極集中が深刻だ。全道で540万人の人口のうち、約36%が札幌市に居住するという極端な偏りが、交通機関を維持するための流動を歪めている。

5つ目は、バブル崩壊の影響だ。1997年11月の「拓銀(北海道拓殖銀行)」の破綻により、北海道は地元の都市銀行を失った。このことによる北海道全体としての資金調達能力の低下や不動産価格の低下は、今でも道経済の重荷となっている。JR九州などと比較して、JR北海道の事業多角化が進んでいないという批判もあるが、いくら駅周辺の便利な土地を保有していても、その土地の担保能力が低ければホテルなどの開発資金を調達することはできない。

6つ目は、その一方で交通機関の多角化が進んだということだ。新千歳空港は拡張され、多くの地方空港が整備される中で、LCCを含めた空の便は大きく輸送能力をアップした。また、道内の高速道路、高規格道路の整備も進み、都市間バスのネットワークが広がる中で鉄道との競合が激しくなっている。

JR北海道は多くの路線において利用者の減少に見舞われているが、その背景にはこうした大きな構造がある。不祥事や台風がなくても、経営が苦境に陥るのは時間の問題であった。そもそも北海道だけを独立会社としたのが間違いだったのだ。だが、過去の判断をいくら批判しても解決策は出てこない。

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