JR北海道の経営危機を救う「5つの解決策」 危機の原因は不祥事や災害でなく「構造的」だ

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いずれにしても、このような対策を組み合わせて行くことでしか、JR北海道の将来というのは見えてこないのではないだろうか。過去30年の日本の運輸行政においては、鉄道の運行は民営化後の各JRに任せ、国としては新幹線や新線の建設を鉄道・運輸機構を通じて支援することが主となっていた。その延長では、形としては民営企業であるJR北海道の直接支援というのは不可能だ。

だが、同じ交通手段であっても、高速道の場合は完全に上下分離となっており、しかもバス事業者は車両への投資だけで、インフラへの負担は利用ベースでの通行料金だけということを考えると、JRの場合は公益性の割には極端なまでに自己完結を求められている。

したがって、具体的には、テーマ別に財源を見出して国の補助を獲得し、同時に上下分離方式で設備や車両の更新を行う、また地域の負担や、JR他社への協業や支援も可能な限り要請する、その上で経常収支を安定させて、中長期的な存続を確保する、そんな複数のスキームの組み合わせが必要であると思われる。

複数スキームの組み合わせであっても、国の財源に期待する以上、全国の世論に対しては意を尽くしての説明が求められる。自助努力の厳しさを自らに求めて行くということは、北海道の鉄道としては将来も変わらず持ち続けなくてはならないだろう。

北海道開拓の努力を次世代に残せるか

雪の中で鉄路を守る作業員たち。鉄道は厳寒期に頼りになる交通機関だ(撮影:今井康一)

一部には、広い面積に過疎化した人口が点在する北海道では、鉄道の維持は不可能だという声もある。だが、実際に毎年冬季の北海道の取材を続けてみると、吹雪になれば空港は閉鎖となり、続いて高速道も通行止めになるという中で、鉄道だけが頼りだという状況を何度も経験させられた。その鉄道が維持できないとなると厳寒期に孤立する地域は計り知れないことになる。

そんな中で、道北や道東では「線路を剥がした地域はみんな衰退した」という声を何度も耳にした。明治150年を間近に控える中で、北海道の基幹鉄道網が維持できないということになれば、道の開拓の歴史が完全に行き詰ったということを意味する。明治以来の先人の努力を次代には残せないということでは、日本の「国のかたち」が揺らいでいると言っても過言ではない。

冷泉 彰彦 作家

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れいぜい あきひこ

1959年生まれ。東京大学文学部卒。米国在住。『アメリカは本当に「貧困大国」なのか』など著書多数。近著に『「上から目線」の時代』(講談社現代新書)。

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