JR「経営多角化」のモデル、実は近鉄だった JR九州初代社長が明かす国鉄改革成功の理由

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JR多角化のモデルは近鉄だった(写真 : BASICO / PIXTA)

JRが発足する2年前、分割民営の方向が決まった直後のことだ。国鉄で常務理事首都圏本部長の職にあった私が、民営化のお手本として目をつけたのが日本最大の私鉄、近畿日本鉄道だった。東京や大阪の私鉄は巨大都市圏が経営の基盤になっているが、近鉄は大阪、名古屋、京都といった大都会をつなぐだけでなく、山岳地帯の過疎地域にも路線を抱える。国鉄と同じ経営環境だ。

路線網に目を付けた「鉄道屋」らしい単純な発想だったが、勉強になった最大のものは、鉄道以外の多角経営の規模とその一流ブランドだった。鉄道事業の数倍の規模の多角経営をしていたのだ。近畿日本ツーリスト、近鉄百貨店、近畿車輛、そして都ホテルなどのホテル群、どの会社も鉄道の付帯事業ではなく、それぞれの業界の一流ブランドとして業界内でしのぎを削っている。これだ、と思った。

グループのブランドは鉄道が作る

近鉄グループ内では鉄道以外の分野のステータスも高いに違いない。鉄道が上座で鉄道以外が下座ではないらしい。ローカル線は赤字でも極端な合理化に走ることはない。多角化経営で黒字を出して、それで補填する。

それでいて、グループのブランドは鉄道が作っている。都市間特急、そして「ビスタドームカー」のような観光特急もある。急遽九州の責任者、常務理事九州総局長として転勤した私にとって、近鉄は、これから発足するJR九州の格好のモデルとなった。便利で安いという「理性的価値」だけでなく、おしゃれでかっこいいという「感性的価値」も、鉄道という過当競争分野では大事だということも学んだ。

社員の意識は訓示やスローガンで変わるものではない。最も効果があったのは、社員の外部への出向だった。九州では1万人の減員を行って1万5000人でスタートしたが、なお適正人員を3000人ほどオーバーしていた。この3000人を社内に抱えていてはよくないと思った。自治体や大手企業には移行時に多数の再就職を受け入れていただいたので、今度は地場の中小企業やホテルなどサービス業に2年の期限付きで社員の出向をお願いした。「1人でも2人でも結構です。給料は当社が負担します。お役に立った分だけの人件費をいただければ幸いです。タダでもいいです」と頭を下げた。

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