こうした大卒の人手不足は、中小企業ではますます厳しさを増す一方です。取材した従業員500人以下のある中小企業では、採用が目標に達成したと回答してくれた会社は皆無でした。
たとえば、北関東に本社を置く半導体関連の製造業。この会社では、会社説明会を行っても学生がほとんど集まりません。当然ながら、その後の選考につながる候補者を確保できなかったので、採用を中止したとのこと。
別の中小企業では、何とか内定を出した数名の大学生が、その後に大企業から内定を受けて全員が「辞退します」ということになり、準備していた内定式の会場を泣く泣くキャンセルした……という厳しい現実に直面したそうです。それくらい大学生の新卒採用に苦戦している中小企業が増えているのです。
ならば、どうしたらいいのか? 来年度以降、説明会を早く行い、母集団と呼ばれる候補者をなるべく多く確保しようと考える企業が増えると言われています。そして、さらなる短期決戦で早めに内定を出して、入社につなげたいという構想のようです。
中小企業の経営者や人事部に取材しても、インターンシップや大学のキャリアセンターとの関係強化など、採用活動の早期化を加速する施策をいくつかあげてくれました。
ただ、こうした施策で中小企業は大学生の採用を実現できるのか? 仮に早めに内定者を確保できたとしても、採用活動が中小企業よりも遅い大企業に根こそぎ「後出しじゃんけん」で負けて、同じような悲しい結末になってしまうだけに思えます。
中途より新卒採用が重視されてきたが…
日本の多くの会社では中途採用より新卒採用を重視する傾向があります。中途採用が即戦力として、これまでの仕事ぶり=経験や能力で選考するのとは異なり、新卒は適性・素養=ポテンシャルを見極める採用です。働き手の職業観をイチから育てることができるので、定着率が高くなる、企業理念を浸透させやすい、人件費も比較的安いなどが重視される理由と言われます。
こうした企業のスタンスは新卒主義などと言われて、日本の採用市場で長く重視されてきました。大学生の新卒採用で企業は成功体験を積んできたという実感もあるのでしょう。筆者も日本の大企業が「現在までの成功」に至る重要な要因の1つに、大学生の新卒採用(しかも一括)があると思います。そうしているうちに、採用支援にかかわる企業が、中小企業にも大学生の新卒採用を勧めるようになりました。古くはリクルート社、現在ではさまざまな採用関連企業が、
「優秀な人材を確保したいのであれば大学生を採用するべきです」
と企業に提案。現在は大企業だけの手法ではなくなりました。ただ、本当に足りなくて採用できません。コストばかりかかるので、採用すること自体を諦めそうになる中小企業が増えています。
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