アマゾンが密かに進める「越境対策」の中身 日本からの配送・現地プロモーションを拡充

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越境EC対策に本腰を入れるに当たって、同社はまず、海外配送の対象商品を拡充した。昨年初は一部の書籍などに限られていたところから、日用品、化粧品、ベビー用品、キッチン用品やおもちゃなどを順次追加。輸入規制が各国・地域で異なっているため正確な数は公表されていないが、足元での対象商品は数百万点まで増えている。

特によく売れているのはベビー用品やスキンケア化粧品だ。「より安心・安全と感じられる日本製品を、日本のサイトから直接買いたいという意向が根強い」(前田氏)。また、オタクグッズを集めた特設ページからは、アニメのフィギアなどもよく売れているという。

配送方法に関しても、越境ならではの工夫を盛り込んだ。スピード重視の「プライオリティ配送オプション」に加え、配送日数がかかるものの手数料が安い「エコノミー配送オプション」を、中国本土、香港、台湾、韓国向けに昨年3月から提供している。ユーザーが荷物の配送状況を確認できる画面には、「通関手続き中」など海外配送ならではの細かい表示をできるよう、トラッキング機能を追加した。

今年3月からは、日本版サイトでの買い物に中華圏で広く利用されている銀聯(ぎんれん、英名:UnionPay)のクレジットカードを利用できるようにした。これで決済の面でも、利便性が大きく上がったと言える。

中華圏のインフルエンサーと組んで販促

海外からの需要取り込みに向け、言語、物流、決済などのインフラ面を着々と整備してきたアマゾンジャパンだが、もう一つ新たな試みを始めているのが、中華圏向けの独自プロモーション策だ。

Weibo(ウェイボー)やWeChat(ウィチャット)など、現地の有力SNSを用いたり、フォロワー数の多いインフルエンサー(ブロガーやユーチューバー)と組んだりして、日本製品販売のキャンペーン告知を展開。逆にインフルエンサー側へのヒヤリングをもとに、引きが強そうな日本製品をピックアップし露出を増やすような手法も行っている。

「日本のメーカーさん、ブランドさんから、中国でいまひとつ人気が出ない、認知度が上がらない……という相談を受ける機会が増えてきた。そこで、ポテンシャルの高い商品については、われわれのチームで一緒になってプロモーションを考え、実行する試みを加速している」(アマゾンジャパン海外事業部の納谷洋充部長)。

実際、同施策を本格的に始めた昨年後半以降、海外からのアマゾンジャパンへのアクセスが確実に増えたという。

中国をはじめアジア圏では、先進各国同様、日用品に対する好みが細分化し、一部のブランドだけが“爆買い”される時代は終わりに向かっている。一方でECサイト、ECモールの巨大化が進むにつれ、メーカーにとっては自社製品を見つけてもらいにくく、ユーザーにとっては自分に合った製品を見つけにくい状況が生まれている。ECの巨人・アマゾンも、より個人に刺さるマーケティングを深めなければならない局面に来ている。

長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

​1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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