コーニング成長の原動力はイノベーション--ウェンデル・ウィークス米国コーニング社会長兼CEO
--コーニング社は業績が厳しいときでも、常に、売り上げの約 10 % を研究開発費に投じている。その理由は。
研究開発費を少なくすれば短期的収益を改善できるかもしれないが、会社が成長していく機会を失うことになる。私がこの組織の指導者である短い期間だけ業績を上げればいいというものではない。我々の時代が終わった後に、大きな成長の機会を持った、より大きな、よりバランスの取れた会社を残すことが我々の目標だ。
研究開発費のうち約 3分の1 は、今後5年から10年は製品化が期待できない、純粋な研究費として使われる。主要プロジェクトの大部分は、ここから生まれている。液晶ディスプレーガラスもそうで、ディスプレイ 事業は成功するまで14年間投資し続けた。光ファイバーについても同じ。重要なのは、長期的投資と短期的投資を常にミックスさせること、成功している間に、次の成功の種をまく計画を立てることだ。
1851年創業のコーニング社のイノベーションは、1879年にトーマス・エジソンの白熱電灯に用いるガラス球開発から始まった。1915年には耐久性の高い調理器具として有名な「パイレックス」を開発。47年にブラウン管の量産技術、70年に光ファイバーを開発した。特殊ガラスに絡むイノベーションで150年間成長した同社に最大の危機が訪れたのは21世紀早々、ついこの間のことだ。90年代後半から光ファイバーで拡大路線をとったのがITバブル崩壊で、文字通り存亡の危機を迎える。2001年は約55億ドルの純損失となり、02年は事業売却やテレコミュニケーション事業の縮小で赤字幅こそ縮小したものの、売上高は半減した。救世主となったのが液晶用ガラスだ。事業再編を行っているときも、日本(静岡)、韓国、台湾にある液晶用ガラス工場への増強投資を怠らなかった。コーニングは、光ファイバー最大手から液晶用ガラス最大手になることで、劇的な回復を遂げた。
--経営危機の原因は何だったのか。
一番の原因は、最大事業であったテレコミュニケーション事業。収益の半分を一夜にして失った。コーニング史上最も大変な時期になり、収益は 1930年代の大恐慌のときよりも落ち込んだ。ただ、多くの会社は同じような状況に置かれれば、今まで自分たちがしてきたことをすべて変えようとするだろうが、コーニングは違う選択をした。イノベーションによる成長、という核を持ち続けた。
--経営危機のときにウィークス会長は、危機の元凶となったテレコミュニケーション事業の責任者だった。通常なら責任を取らされて退くはずだが、逆にコーニングのトップになり、再建を託された。これは非常に珍しいケースだが。
責任を取る、という意味では同じ。そのとき会社の仲間や従業員、そして役員会に対して私が言ったことは「このような状況にまで会社を追い込んだことに責任は感じている」ということ。私が望んだのは、一刻も早く最悪の状況を変えることで、会社を立て直すために多くのことを行った。その結果、 昨年は5期連続して増益を記録した。史上最高を記録した経営数値もある。
--見事にウィークス会長は成功したわけだが、その手腕を評価されてヘッドハンティングされることなどなかったのか。これからもコーニングを率いていくのか。
私にとって、コーニングは最高の会社なのですよ。コーニングが私を必要としてくれる限り、私はコーニングで働き続けるだろう。コーニングの社風で重要な点は、何よりもコーニングが第一であるということ。組織が最も重要で、コーニングという組織があってこそ、そこで働く人々がいる。この素晴らしい会社で働くことができることを私は誇りに思っている。
液晶用ガラスの急成長で、07年の地域別売上高構成比はアジア・太平洋が
53%、北米31%、欧州13%と、アジア・太平洋が半分を占めるまでになった。液晶ディスプレーとともに排ガス制御装置などで日本の自動車メーカーとも取引がある。昨年、同社としては初めての地域担当のCTO(最高技術責任者)を日本に常駐させた。
--日本市場については、どのような考えを持っているのか。液晶ディスプレーについて日本は非常にいい市場のはずだが、他に興味のある市場は。
現在でも、日本は我々にとって非常に重要な市場の1つだが、今後、より重要になっていくと考えている。それは日本の会社の多くが創造的であるためだ。今後、コーニングが成功を続けるためには、このような重要な顧客、リーダーたちと共に働くことが必要だ。液晶ディスプレー だけでなく、環境技術や次世代エネルギー技術においても同じで、これらはすべてコーニングにとって重要な分野だ。コーニングは、今後数年にわたり日本で成長し続ける。
(聞き手 鶴見昌憲 =東洋経済オンライン)
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