日本人が知らない米国「聖域都市」の謎な実態

「不法移民保護都市」をめぐる米国人の葛藤

ジョージさんはこの一家を、ロサンゼルスに引っ越しさせたという。ロサンゼルスには不法移民が合法移民に混じり、建築現場や機械製品の修理工場などで働くことが多いそうだが、ジョージさんは住む場所を確保したうえで、建築業者に頼み込んで新しい職を提供し、一家を助けた。不法移民に職を与える企業は、人件費を抑えることを目的に、知っていながら雇い入れをするケースが多い。

ジョージさんは、ため息まじりに言った。「人権保護と言いながらも、不法移民をかくまう理由がある企業や地域があるのも、また事実です。世の中きれいごとではありませんから。安い人件費で働ける人手確保のために不法滞在の人たちが利用されている。本当に複雑な気持ちになります」。

不法移民問題に「正解」はない

貧富の差やリベラルと保守の間で深まる分断が進んだ米国にいると、「何が正しく、何が間違っているか」という問題にさまざまな場面で直面する。そしてそのほとんどに、「これが正解」という答えは存在しない。不法移民の問題もまた、何が正しいことなのかは判断しにくい。

前出のナターシャさんは「いかなる理由があっても、ルール違反はルール違反だ」とし、「中には麻薬販売など凶悪組織と関係するような不法移民もいるわけで、そんな人たちがこぞって聖域都市に来てもらっては危険極まりない」と語った。確かにそうした声はよく聞くし、不法移民保護そのものの考え方や、そのための増税に否定的な人も少なくない。

一方で、聖域都市肯定派の視点からすると、本当に行き場を失い、国境を越えるしか生活する道がなかったなど、やむを得ず不法移民となってしまった「弱者」とも言うべき人の人権を守ろうとする正義が正しいのだ。

「自分たちがたった数百ドル捻出し、善意の手を差し伸べることで、困った人たちを救うべきだろう。移民の国が移民を助けないという姿勢は間違っている」――。しかし、本当の「正義」とは何なのだろうか。何が本当の「公平」なのだろう。分断が進んだ米国の、バラバラの価値観。米国がどこに行こうとしているのかは、住んでいる人間であっても今のところ、まったく先が見えてこない。

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