韓国30代男女に「おひとり様」が激増する理由 「1人焼き肉」店やコンビニ弁当など商機拡大

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コンビニチェーン「GS25」の弁当には、韓国の人気ベテラン女優キム・ヘジャさんのステッカーが貼られている(GS25リテイリング提供)

「取り組みを続けてきた結果、顧客の信頼度が増したのだと考えています。最近ではお弁当の他にレンジで簡単に温めて食べられるお総菜や酒肴などでも多種多様のメニューを提供しています」

韓国でホンバプ族が急増した背景に挙げられるのは、1人世帯の増加だ。1人世帯が全体に占める割合は27.1%(統計庁、2015年)ともっとも多く、この中でも60歳以上の独居老人は43.2%を占める。未婚の増加や結婚しても共働きで子供を持たない夫婦などが増えたこと、また、高齢化により単身で住む高齢者が増加していることが影響している。

30代後半・未婚女性の知人は言う。「友人は結婚しているか、結婚していなくてもみな忙しくて、会って食事するなんて年に数えるほど。普段は残業で遅くなった時はひとりでふらっと食堂に入ったりして簡単に済ませたり。時々は会社の同僚とごはんを食べるけれど、それも煩わしいし、ひとりでいるほうを選んでしまう」。

コンビニにお弁当を買いに来ていた大学生は、こう話した。「とにかくみんな忙しい。授業が終わったらアルバイト、資格をとるための塾にも通ったりして、時間がない。食事というより義務的に一食をこなしている感じ」。

食事以外でも加速する「おひとり様」傾向

こうした「おひとり様」傾向は、食事に関連したホンバプ族だけでない。映画やミュージカルなどを1人で観賞する人も増え、1人用の座席を設ける映画館も登場している。

韓国紙の記者は次のように分析する。「ホンバプ族の急増した背景には少子高齢化や1人世帯の増加もありますが、韓国はとにかく自分と他人とを比べる文化のため、誰かといることに疲れてしまっているという事情があるでしょう。また、都市での生活が格段に便利になっていることも理由に挙げられるかと思います。『1人でいること』への世間の目も変わってきていて、1人で自由に食事や文化を楽しむ人が増えたのだと思います」。

昨年には、『ホンスル男女』(邦題『一人酒男女』)というドラマがヒットした。主人公の塾の講師は、勤務していた塾で人気が出ると、嫉妬に駆られた先輩に裏切られ、それ以降は同僚との食事を一切しないと心に誓う。「感情浪費、時間浪費、カネの無駄の飲み会は絶対にノー、もっぱら1人だけのヒーリングタイムは贅沢に一人酒を楽しむ」(HPより)という設定で、ひとりでレストランや食堂に入り、イヤホンで音楽を聴きながら自分の思うままに食事を堪能する姿が共感を呼んだ。

韓国というと、どうしても「ターカッチ(みんな一緒に)」を好むイメージが強いが、先の30代の知人女性はこう言う。

「韓国は『圧縮成長(急激な成長)』をしたなんていわれていますが、経済と同じように人々の価値観もすごいスピードで変わってきています。みんなが忙しい今は『ナ(私)』の時代。今はまだなんとなく寂しい感じがするホンバプですが、食事をひとりで心から楽しむ、というのがこれからあっという間に普通になると思いますね。でも、そうなるとまたきっとみんなで集まろうってなるのかもしれないけど・・・」

菅野 朋子 ノンフィクションライター

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かんの ともこ / Tomoko Kanno

1963年生まれ。中央大学卒業。出版社勤務、『週刊文春』の記者を経て、現在フリー。ソウル在住。主な著書に『好きになってはいけない国』(文藝春秋)、『韓国窃盗ビジネスを追え』(新潮社)がある。

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