“戦時体制”への移行はベルリンの壁モデルで−−レスター・ブラウン アースポリシー研究所所長
20世紀の延長で社会経済を運営する現状の政策(プランA)を破棄し、新政策「プランB」の実施を訴えるブラウン氏。2007年10月に発表した「プランB3・0」では「気候の安定」「人口の安定」などを目標とした具体策を示した。人類文明を救うために、“戦時体制”で新しい社会を築くべきと説く。
--05年発表の「プランB2・0」との最大の違いは?
「3・0」の重要なポイントはCO2排出を2020年までに80%削減することだ。ここ2年ほどで気候変動に関し、さまざまな新しい情報が出ている。局地の氷の融解は加速度的に進み、「2・0」のときより明らかに緊急性が高まっている。
--現在の米国は地球温暖化問題に前向きとは言えない。
確かに、私が住んでいるワシントンDCでは、あまり大きな動きはない。しかし、別のところでかなり大きな進展が見られる。米国そして世界にとって非常に喜ばしいのは、草の根運動が大量にCO2を排出する石炭火力発電所の新規建設に対し大きな影響を与えたことだ。
1年前に米エネルギー省が作成した研究報告書の副題は「石炭エネルギーの復活」というものだった。最近10~15年、米国では主に天然ガスを使って火力発電を行っていたが、天然ガスの価格が高騰したため、天然ガスは経済的ではなくなってしまった。そこで石炭を積極的に使おうという考えを示した。この報告書には、新規に建設が予定されている151件の石炭火力発電所リストが掲載されていた。
しかし151件のうち59の計画が破棄された。というのも、草の根運動の圧力を受けた州当局が認可を与えなかったためだ。承認された案件でも48件が建設中止を求める裁判を起こされている。
3大投資銀行は石炭火力発電所への融資を事実上、凍結することを宣言した。ウォールストリートのいくつかの投資銀行は、クライアントに石炭火力発電所の株を売り、火力発電以外のエネルギー企業に投資するように勧めている。
--連邦政府より先に市民や投資家が動き出した、と。
米国では、社会的な動きはワシントンDCから始まったためしがなく、つねに大きな社会運動は草の根から始まっている。人種差別撤廃、男女差別撤廃、そして環境の問題に関しても、草の根運動が政府の行動を促している。
--とはいえ上院には米国の排出総量削減を主眼とした法案がいくつか提出されている。こうした動きへの評価は?
正しい方向だが、まったくのショートステップ。「プランB3・0」で私が強調しているのは、政治的に実行可能な対策だけを行うやり方を根本的に変えなければならない、ということだ。グリーンランドの氷床や乾期にアジアの主要な大河を潤すヒマラヤの氷河の融解を食い止めたければ、どのくらい早く、どのくらい多くCO2排出を削減しなければならないか。その答えは2020年までに80%削減することだ。