“戦時体制”への移行はベルリンの壁モデルで−−レスター・ブラウン アースポリシー研究所所長

--ロングステップの変化は考えられますか。

約20年前に飛行機内での喫煙は、ある一定の場所に限られるようになった。まず、そういった形で喫煙を制限した。しかし、数年後には、これが全席禁煙になった。部分的に喫煙を制限することと全席禁煙にすることは、喫煙を制限するという点では本質的に変わりがない。

新規の石炭火力発電所の建設を中止する理論的根拠は、既存の石炭火力発電所を閉鎖するという理論的根拠にもつながる。そのため、新規建設禁止は、非常に重要な一歩だと思う。おそらく今年中に、石炭火力発電所の新規建設に関しては、事実上のモラトリアムが設けられることになるだろう。

もちろん、プランAからプランBへシフトすることは簡単ではない。強大な政治力を持つ産業界からの反発もあるだろう。しかし、たとえば1990年代に最も政治力の強い産業の一つだったたばこ産業は、肺ガンによる医療費を賠償するよう州政府から訴えられ、巨額の賠償金を支払うことになった。ミシシッピー州の若い1人の弁護士が、肺ガンになった個人ではなくその治療費を負担する州政府を原告にすることを思いついたからだ。これにより「たばこの外箱に肺ガンの警告が書いてあるのだから、ちゃんと読まないほうが悪い」というたばこ会社の主張を乗り越えることができた。何か突破口があれば、物事が加速度的に変わっていくこともあるのだ。

--戦時体制へのシフトが必要と説いていますが、大きな犠牲が発生しなければ動かないのでは?

確かに社会的変化は大きな犠牲や混乱でもたらされることが多い。かつて米国でもそのようなことがあった。米国は第二次世界大戦に参戦したくなかった。しかし、真珠湾攻撃によってすべてが変わった。これが社会的変化を促す一つのモデルだ。

そして、もう一つのモデルがベルリンの壁崩壊タイプだ。その直前にこれといった大きな事件はなかったのに、いつの間にか壁は崩壊した。一夜にして東ヨーロッパのほぼすべての国で、血を流さない政治革命が達成された。さまざまなことが少しずつ重なって政治的な転換点を迎え、一気に物事が変わる。これが第2のモデルだ。

今回の気候変動の危機に対しては、第2のモデルで進んでいってほしい。頻発するカトリーナのような災害、高騰が続くガソリン価格といった要因と人々の気候変動への懸念の高まりなどが組み合わさることで、遠くない将来、大きな変化点を迎えることを期待している。

(週刊東洋経済編集部)

Lester R. Brown
1934年ニュージャージー州生まれ。ラトガーズ大学、ハーバード大学で農学と行政学を修める。米農務省で国際農業開発局長を務め、74年にワールドウォッチ研究所を創設、84年には『地球白書』を創刊した。2001年5月アースポリシー研究所創設、「エコ・エコノミー」「フード・セキュリティ」「プランB」などを提唱している。

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