中川:乙武さんが障害に詳しく、障害を語れる人である、というのも間違いないんです。だから、今日はこういう話もしているんですが、今こういう話をしているのは失礼ではないですか?
乙武:まったく失礼ではなく、私は乙武洋匡という1人の人間が、こう考えているということを、これからも発信していくつもりなんです。ただ、私はけっして障害者の代表ではないし、「私の意見=障害者の総意ではないよ」ということも、併せて言い続けていかなければと思っているんです。
「使い減りしない、タフで便利な中継ぎピッチャー」
中川:俺もいろんな取材やオファーをいただくんですが、だいたいの場合、「ネット炎上が起きましたけど、中川さんはどうお考えですか?」という話で来るんですね。それと同じという考え方もできますね。
乙武:はい。中川さん個人の見解が、「あっ、ネットの炎上ってこういうものと決まっているんだ」と、まるで正解のようにとらえられたら、ちょっと怖いじゃないですか。他の編集者とか、ネットに詳しい方から見たら、違うように見えるかもしれない。そうしたなかで、「中川淳一郎はこう見ている」というふうに受け取ってほしいじゃないですか。
中川:そう思うんですよ。ネット炎上について語れる人は、やまもといちろうさんとかいるわけです、それなりに。俺はそのうちの1人でしかない。これが健全ですよね。
乙武:おっしゃるとおりです。だから、「乙武はこう思っているけど、あの人はこう思っているんだ」の、「あの人」がもっと出てきてほしいんですよね。
河崎:なぜ「障害」という分野において、他に人材を見つけようと思ってもできなかったんでしょう? 次につながっていかなかったんでしょう? メディアの怠慢なのか、あるいはやっぱり落としどころというか、世間的に据わりのいい誰かを見つけられなかった、というのも背景に何かあるのでしょうか。
中川:もしかしたら、障害者を出す場合に「あの人は体が大変なのに引っ張り出してきて、いじめだ」とかね、いろいろ言う人がいたのかもしれない。でも乙武さんの場合だと、「勝ち組である、強者である」との社会認識があるから引っ張り出せるのかもしれない、とちょっと思ったんですけど。
乙武:僕、野球が好きなんで、野球の例えになっちゃうんですけど。監督が好んで使う、中継ぎピッチャーっていますよね。本来は試合展開によって、「勝ちゲームのときはこいつ、負けゲームのときはこいつ」と分業制になるのが理想なんですけど、そういう枠を取っ払って「来る日も来る日もこいつ」みたいに使われるピッチャーっているんですよ。
それってやっぱり使い減りしなくて、少々のことでは肩が壊れない、タフなピッチャー。僕の存在は、結構それに近いのかなと思っていて。「乙武って、どれだけたたいても、どれだけいじっても全然へこたれない。これまでは障害者ってヤワな存在で、腫れ物に触るかのような扱いをしてこなきゃいけなかったけど、あいつはどういじっても笑顔で気丈に対応してくれるから、まあ乙武を使っておけば無難」みたいなのは、もしかしたらあるのかもしれないですね。
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