世界中の国々が現在、国際的な貿易関係を見直している。これは悪いことばかりではない。グローバル化は以前から先進国の数百万人もの労働者に好影響だけでなく、悪影響をも及ぼしてきた。新たな通商政策は、グローバル化がどう進化しているのかを正確に認識したうえで構築されなければならない。
確かにグローバル化は世界を豊かにした。マッキンゼー・グローバル・インスティテュート(MGI)の調査では、世界的な財・サービス・資金・データ・人の流れにより世界のGDP(国内総生産)は約1割増えた。この増加分は2014年だけで約7.8兆ドルに相当する。
貿易の自由度が高い国ほど、こうした恩恵を享受している。たとえば世界各国の貿易・資本・情報・人々の流動性を示すMGIグローバル連結性指数で、調査対象195カ国のうち3位となっている米国の経済状態はかなり良好だ。新興諸国も輸出を目的とした工業化を進めて成長を遂げ、巨額の富を築いてきた。
負の側面も忘れてはならない
しかし、グローバル化は所得格差を拡大した。1998~08年に、先進国の中産階級の所得はほとんど増えなかったが、資産家の所得は約7割増えた。しかもグローバル化の恩恵を受けた上位1%の富裕層は、その約半分が米国に集中している。
もっともグローバル化の焦点はそこにはない。単純労働を自動化する一方、高度な熟練労働者の需要と賃金を上げた点にある。
さらに重要なのは、安価な製品やサービスを生み出す新興国との競争激化で打撃を受けた産業や地域で不満が強まり、グローバル化の後退を主張するポピュリストが支持を集めていることだ。