誰も降りない「秘境駅」を存続させる町の狙い 維持費を負担してでも残したいワケは

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ホタテ漁やイチゴ栽培が盛んな豊浦町。ただ、これらの“特産品”が広く認知されているとはいい難い。そこで、それらを知ってもらうためにきっかけとして小幌駅を活用する。さらに、小幌駅周辺の小幌洞窟などの散策も含めた観光プランを提案して“鉄道で来て鉄道で帰る”だけの小幌駅と、町の中心を結びつけていくというわけだ。

「そのためには、まずは基幹産業である農業、水産業を守っていくことが大前提。小幌駅ばかりが注目されがちですが、観光で多くの人が来てくれるようになっても肝心な一次産業が衰退していては何の意味もないですから。小幌をきっかけに豊浦の中心地にも来てもらい、町を元気にする。そして一次産業の担い手も確保していく。耕作放棄地も多いので、新規就農につながってくれると理想です。目立った観光地があるわけでもないので、町にあるものはすべて使う。長万部まで新幹線が開通すれば、さらに起爆剤になってくれると期待しています」(小川副町長)

地域の魅力を発信し、観光客や移住者の誘致を進めるにも、これといった“目玉”がない。多くの地方自治体が抱えている問題でもある。その点、直接経済効果は生み出さないにせよ、観光誘致のきっかけになる“秘境駅”があるだけでも豊浦・幌延の両町は恵まれているのかもしれない。

本当はJRと連携して取り組めれば…

ただ、幌延町の山下さんが「JRさんからもっと早く相談してもらえれば」と言うように、JRサイドと連携して観光促進を進めていければより効果があがっていたとも考えられる。

「宗谷線はどうやって存続するかという話になっていますよね。もちろん我々沿線自治体にも現在の状況を招いた責任がある。道路やバスばかりに投資してきた部分もあるのですから。とは言え、何も打つ手がなくなってから相談されてもどうしようもない。駅は本来鉄道事業者、JRさんが管理するのが筋です。だから、一緒になっていろいろと取り組んでいければもっとよかった。今さらですけどそう思いますね」(山下さん)

限られた予算の中から“駅を維持する”という方向に舵を切った豊浦町と幌延町。誰も利用しない駅を逆手に取った観光PR作戦とでも言うべきか。豊浦町・幌延町ともに「駅はPRのツール」と断言する。JR北海道の経営難と路線維持・存続議論の中で、今後もこれらの秘境駅への高い注目は維持されるだろう。その間に“次”につなげる何かを見いだせるか否か。地域の底力が、試されている。

鼠入 昌史 ライター

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そいり まさし / Masashi Soiri

週刊誌・月刊誌などを中心に野球、歴史、鉄道などのジャンルで活躍中。共著に『特急・急行 トレインマーク図鑑』(双葉社)。

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