青函トンネル「貨物撤退」はなぜ封印されたか 新幹線開業の際、船に切り替える案があった

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青函トンネルから姿を現した北海道新幹線E5系(写真:ぺいさま/PIXTA)

北海道新幹線の新青森―新函館北斗間の開業からもうじき3カ月が経つ。乗車率は低迷したままだが、これは予想の範囲内だ。大都市間を結び、大量の利用客を運ぶという新幹線本来の機能が発揮されるのは2030年度の札幌延伸を待つ必要がある。

ただ、ここまで低迷しているのは、終着駅が大都市ではないからという理由だけでは説明がつかない。所要時間の長さも要因の一つである。東京―新函館北斗間の最短所要時間ですら4時間2分。新函館北斗から函館市内へはアクセス列車を利用する必要があり、さらに時間がかかる。

一般的に、航空機から新幹線に客がシフトするのは所要時間が4時間以内の区間であるとされる。人口190万人の大都市である札幌が沿線に加われば、通常、需要は一気に拡大する。しかし、現行ダイヤから想定すると東京から5時間近くかかる。これでは航空機から客を奪うなど夢物語だ。

すれ違い問題は長年指摘されてきた

時間短縮を阻むのが、青函トンネルとその前後にある在来線貨物列車との「共用走行区間」である。この区間は、線路幅1435ミリメートル幅の新幹線と1067ミリメートル幅の在来線が走行できるよう、3本のレールを並べた「三線軌条」となっている。

新幹線が共用走行区間を高速で走ると、貨物列車とすれ違う際に風圧で貨物が荷崩れしたり、脱線したりする怖れがあることはずいぶん前から指摘されていた。そのため、新青森―新函館北斗間の工事開始に先立ち、共用区間には防風壁や脱線防止ガードを設置して風圧や脱線を回避するという案が国土交通省から打ち出された。

しかし、800億円と試算された工事費の追加負担を誰が負担するかで議論が紛糾した。青森県は「増額の要因は貨物列車対策であり、JRが負担すべき」と反発。議論は平行線をたどったまま結論は出ずじまい。共用区間では新幹線が在来線並みの時速140キロメートルまで減速する、つまり新幹線としての機能を放棄するというその場しのぎの対応で今日に至っている。

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