青函トンネル「貨物撤退」はなぜ封印されたか 新幹線開業の際、船に切り替える案があった

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さすがにそれではまずいということになったのか、国土交通省・交通政策審議会のワーキンググループ(WG)は、2018年春に共用区間内を新幹線本来のスピードで高速走行できる列車を1日1往復実現することを目標に方策を練っている。すれ違いが生じないよう、新幹線と貨物の走行時間を区分する案が有力だ。

とはいえ、1日わずか1往復では抜本的な解決にはほど遠い。将来の札幌延伸を見据えて、より本格的な対策も検討されている。たとえば、すれ違い時に新幹線が速度を落とすシステムの開発や、あるいは貨物を運ぶ高速列車の開発といったものだ。

北海道を走るJR貨物の列車(撮影:吉野純治)

後者については、JR北海道が提案した「トレイン・オン・トレイン(TOT)」が検討されている。在来線の貨車を丸ごと新幹線車両に積んで高速走行するという案だが、重量がかさむという欠点がある。この代替案として、コンテナだけを新幹線車両に積み替える「貨物新幹線」というアイデアも出ているが、いずれにしても貨物を時速200キロメートル以上の高速鉄道で走らせた前例はない。しかもTOTの導入コストは3000億円(JR貨物試算)とされる。貨物新幹線も似たり寄ったりだろう。

その点では、前者のすれ違い時減速システムのほうがより現実的といえるが、こちらも「これまで例がない」(国土交通省)。安全で確実な速度制御システムを構築できるかが最大の課題となる。

貨物輸送を船にシフトする案も

そんな中、「JR貨物は青函トンネルから名誉ある撤退をすべき」という声が道内の一部で上がっている。青函トンネルが開通する以前、函館と青森を結ぶ鉄道貨物輸送は青函連絡船が担っていた。貨物を貨車ごと積んだ船が津軽海峡を行き来していた、その状態に戻るというわけだ。貨物列車がトンネルを走らなければ、新幹線は安心して高速走行できる。

今も昔も北海道―道外間の輸送の主役は海運で、交通機関別のシェアは80%を超える。一方、青函トンネルの開通をもってしても鉄道のシェアは8.3%にすぎない。「フェリーを3~4隻新造すれば、貨物列車の輸送を代替できる」と北海道大学公共政策大学院の石井吉春教授は言う。3~4隻といわず、10隻程度あればピストン輸送も可能だろう。1隻当たりの建造費は100億円程度。積み替え用のターミナル建設に伴う費用も数百億円単位でかかる。決して安くはないが、これはTOTや貨物新幹線でも同じだ。

船で輸送する最大のデメリットは所要時間が延びるという点だ。在来線列車の函館─青森間は2時間程度。それに比べて函館と青森を結ぶ現在の津軽海峡フェリーの所要時間は3時間40分かかる。さらに、船に切り替えると積み降ろしに要する時間が余計にかかることになる。

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