「偽装だらけ」の東洋ゴムは、復活できるのか 免震ゴムの関連特損で8期ぶりに赤字転落

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直近の3カ月で特損が膨らんだのは、2015年4月に公表した免震ゴム偽装のあった建物99棟分について改修費用の見積もりが整ったためだ。ほかのケースと異なり、競合であるブリヂストン製の免震ゴムで代替できず、東洋ゴムが自社で改めて製造しなければいけないものが中心だった。国土交通省や第三者委員会の検証も要する自社製品の費用が合理的に算出することができ、ようやく大きな膿を出せたといえる。

免震ゴム、防振ゴム、そしてシートリング。一連の不正の舞台となったのは兵庫県稲美町にある、東洋ゴムの完全子会社、東洋ゴム加工品の明石工場だ。主力事業であるタイヤの生産ではなく、そのほかの製品を受け持つ多品種少量生産の拠点だ。社員はそれぞれまったく異なる細かな製品の担当に分かれていたため、工場全体でガバナンスが効きにくかった可能性がある。ただ再発防止策への取り組みには現場が積極的に取り組んでいるところだったというだけに、「痛恨の極み」と思いが社員の間で強いようだ。

2016年度本決算とともに発表された、シートリング問題の緊急対策(記者撮影)

今回の決算説明会ではシートリングに関して新たに緊急対策も発表された。2人がかりでの検査体制を徹底し、過去データの転記ができないようデータファイルにロックをかけるなどの対策がすでに始まっている。

業務の明確化や相互チェック、現場のコミュニケーションの活発化などの明石工場の抜本改革も言及された。そのうえで今月中に原因究明と再発防止策の見直しを行い、来月には具体的な取り組みに落とし込む方針だ。

2017年12月期は純利益で250億円の黒字を見込む。株式市場は先述の特損計上と今期の黒字化を好感し、東洋ゴム株は15日だけで10%以上の上昇を見せた。

まだまだ費用は膨らむおそれがある

ただ会社計画どおり利益を生むことができるかは不透明だ。昨年12月末までに全154棟中、免震ゴムの改修工事を着工できたのは45棟のみ。そのうち完了したのは29棟と、まだ道のりは長い。2018年中に改修を終える計画も示したが、工事を進めるなかで、新たな費用は当然発生してきそうだ。これまで改修を済ませた案件は、まだ入居前のものなど比較的容易なものが中心。今後は共同住宅など、入居済みの建物での改修が多くなる。特に店舗などの補償費用などが膨らむおそれがある。

明るい話題があるとすれば、本業であるタイヤ事業の好調ぶりだ。北米では原油安を追い風にした大型車ブームで、得意のSUV(スポーツ多目的車)用タイヤがよく売れている。2016年末で北米工場の増強が完了したことで、今期はフルに寄与してくる。足元の原料高に対しても他社が価格転嫁に苦しむなか、北米では上期からの値上げを打ち出しており強気だ。

国内タイヤ事業ではトヨタ自動車のハイブリッド車「プリウス」に採用されるなど、事件発覚後も「シェアは伸びている」(清水社長)。それだけに、今回の不祥事発覚は優良顧客に「迷惑をかけ申し訳なく思っている」(同)状況だ。

タイヤの”快走”をムダにしないためにも、これ以上の不祥事発覚は是が非でも避けなければならない。東洋ゴムの信頼回復への道のりは果てしなく長い。

山内 哲夫 東洋経済 記者

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やまうち てつお / Tetsuo Yamauchi

SI、クラウドサービスなどの業界を担当。

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