殺虫”蚊帳”開発に挑む−−マラリアからアフリカを救った日本人

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住友化学は、オリセットネット事業をボランティアでやっているわけではない。適正な値段で販売し、きちんと利益を稼ぐ。つまり、正当なビジネスとしての取り組みだ。

利益の一部は、アフリカの学校の校舎、給食設備などの建設費用に充てており、現在まで7物件が完成した。しかし、そうした地域貢献は、この事業の社会的意義のごく一面にすぎない。

販売で上がった利益は、オリセットネット生産への再投資に回る。現在、住友化学は中国とベトナムにオリセットネットの生産ラインを持っており、量産効果によってコスト削減が進んだ結果、販売価格は5ドルまで下がった。価格低下によって、さらに普及が進むだろう。

貧困に苦しむタンザニアに雇用を生み出してもいる。オリセットネットの技術を無償で供与した現地メーカー「AtoZ Textile Mills Limited」が03年、タンザニアに工場を設置、今年2月にAtoZ社と住友化学の合弁会社が新工場を稼働させたからだ。現在、両工場合計で約3200人が直接雇用されており、オリセットネットの生産能力も1000万張りに上る。今や、タンザニアの一大産業といっても過言ではない。

住友化学の創業以来の理念は、住友精神である「自利利他公私一如」。つまり、「自らの利益を得るものであるとともに、社会に対して利益をもたらすものでなければならない」という意味だ。オリセットネットは、この理念を具現化している。

今年、定年退職を迎える伊藤は、感慨深げだ。「開発した頃は、まさかここまで大きな事業になるとは思わなかった。今では、完全に自分の手を離れてしまった」。まるで自分の元から旅立った子どもを見る親のような心境だろう。

オリセットネットの需要はとどまるところを知らない。昨年4月、住友化学はオリセットネットなどの普及を加速するために、新たにベクターコントロール部という部署を設置した。今年6月には、年間生産能力2000万張り、現地で5000人以上の雇用創出を見込む巨大工場の計画をブチ上げている。

だが、ベクターコントロール部を率いる水野達男は、この現状にも満足していない。「需要は拡大しているが、普及のスピードはまだまだ遅い。今以上のコストダウンや物流の整備などを進めて、一人でも多くのアフリカの人たちを救いたい」と力を込める。そう、伊藤の“業績と思い”は、住友化学の社内にしっかり引き継がれているのだ。=敬称略=

(中島順一郎 撮影:梅谷秀司 =週刊東洋経済)

いとう・たかあき
1948年生まれ。73年、住友化学入社。96年生活環境事業部。97年住化ライフテク出向。2007年ベクターコントロール部。

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