殺虫”蚊帳”開発に挑む−−マラリアからアフリカを救った日本人

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追い風が吹き始めたのは98年のこと。世界保健機関(WHO)やユニセフ、世界銀行、国連開発計画などが主体となって、「ロールバックマラリア」計画が策定されてからだ。2010年までにマラリアによる死亡率を50%に減少させるというこの計画は、殺虫剤処理をした蚊帳の使用による感染予防を柱に据えており、オリセットネットは一躍注目を集めることになった。

特に、オリセットネットを評価したのがWHOである。00年頃には、住友化学へオリセットネットのアフリカへの技術移転を要請。翌年には、オリセットネットを世界で初めてマラリア防除に効果のある長期残効蚊帳として認定した。

そして03年。この年を伊藤は忘れられない。当時、年間生産能力がまだ100万張りもなかった時点で、WHOからイラク向けに20万張りの注文が入ったのである。それを聞いた伊藤は思わず「やった」と雄たけびを上げた。さらに、ユニセフからは「1000万張りの蚊帳が欲しい。どれぐらい生産できますか」と打診を受けた。伊藤は夢見心地だった。

認知度が上がるにつれて、国際機関やアフリカ各国政府などからの需要は急増していった。

マラリア患者が激減 利益は現地にも還元

オリセットネットの普及によって、マラリアの感染は着実に減り始めている。ケニアにあるサウリ・ミレニアム村では、オリセットネットを配布し、その効果を測定した。すると、マラリア発病の元になる原虫の保有者は55%から13%にまで減少。患者数は半減したという現地の医師の報告もある。

だが、オリセットネットの評価が世界で高まっていった時期でさえ、当時の住友化学社内の評価は必ずしも高いとはいえなかったようだ。

住友化学はWHOの要請に応じ、アフリカへのオリセットネットの技術移転を無償で行っている。それができたのも、当時は社内でそれほど重要視されていなかったことが背景にあるのだろう。伊藤を中心に限られた人数で進められたプロジェクトであったため、時には「伊藤商店」と揶揄されたこともあったという。

しかし、今やオリセットネットは社内でしっかり認知され、住友化学の事業としての展開が約束されている。このことは、この事業を安定的に継続していくために、極めて重要なことだと伊藤は考える。

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