共同声明や記者会見では、2国間FTA交渉を始めるという約束はなく、あいまいな「2国間フレームワーク」という言葉を持ち出すにとどまった。麻生氏・ペンス氏の「経済対話」のことを指すとみられるが、将来的なFTAの枠組みを指している可能性もある。
選挙期間中、「日本が米軍駐留費を全額負担しなければ、米軍を引き揚げる」としていたトランプ大統領の態度は一転し、記者会見では日本が防衛拠点を提供したことに感謝さえしている。
ただ、この"ハネムーン"は長くは続かないかもしれない。トランプ大統領は日本(や他国)への厳しい貿易姿勢をある程度、取り続けなければならないからだ。さもないと、2012年のオバマ(民主党)支持から2016年のトランプ支持に転じた5つの工業州で、労働者である有権者から"詐欺師"呼ばわりされることになる。
トランプ大統領は雇用を取り戻せない
トランプ大統領が困るのは、貿易赤字を解消するという公約を果たせず、「日本や他国に奪われている」としている雇用を「取り戻す」ことができなかったときだ。トランプ大統領は、日本や他国が長期間にわたり米国に対して巨額の貿易黒字を維持することができるのは、「通貨切り下げゲーム」という"いかさま"をしているからだと、有権者に対し訴えてきた。たとえば日本銀行が金融緩和により円安に誘導するなどの"不正行為"をやめさせる、としている。
このトランプ大統領の理論は、次期商務長官のウィルバー・ロス氏と、国家通商会議委員長のピーター・ナヴァロ氏により、選挙期間中から展開されている。ナヴァロ氏とロス氏はある論文の中で、「教科書的な理論によれば、バランスの取れた国家間の貿易は長期的な基準になるはずで、米国で10年以上続いた慢性的かつ大規模な貿易赤字にはなりえない。両国のコスト構造の違いが為替の変動によって効率的に調整されなければ、教科書的なバランスの取れた貿易にはならない」としている。
標準的な経済学では、こうしたことは言わない。だが、このオルタナティブ(代替的)な理論によれば、日銀が円安誘導をやめれば、米国の貿易赤字の大部分は解消するとされる。現実には、日銀は為替操作をしていない。為替介入をしようとして失敗しているくらいだ。日銀は、中央銀行がマネーサプライを十分に増やすと通貨を弱める可能性があるとしているものの、実際にはマネーサプライは通貨の価値の決定打にはならない。今日でも日銀は金融緩和を続けているが、中央銀行や大統領よりも市場の影響のほうがはるかに強く、2015年中頃から現在にかけては10%の円高ドル安となっている。そもそも日本は、円高・円安にかかわらず、何十年もの間、米国に対して貿易黒字を続けている。
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