大阪を再生できるか 「橋下改革」の行方
6月20日、夜10時過ぎ。職員の人件費削減案をめぐり、橋下徹・大阪府知事と労働組合とによる労使交渉が行われた。
知事 「大阪府が財政再生団体に転落してもいいのですか」
労組 「まるでテレビのコメンテーターのような論旨のすり替えだ」
橋下知事は両足のかかとを軽く浮かし、時折左足を上下に揺らす独特の姿勢で、メモをとりながら組合の主張を聞いていた。が、時間の経過とともに頬を紅潮させ、声を荒げる場面が増えた。白熱の議論は平行線をたどったまま朝を迎えた。結局、約12時間にわたる交渉は決裂。知事は組合の同意を得られないまま、給与カットなどの関連条例改正案を7月1日から始まる議会に提出する。
抗議が殺到してもメディア戦術で勝利
これに先立つ6月5日、橋下知事は「大阪維新プログラム」を発表した。3年間で約3000億円の収支改善を目指すことが柱で、内容は全職員の給与・退職金の削減、私学助成金の削減、不採算公共施設の廃止など多岐にわたる。スクラップ策だけでなくビルド策も盛り込まれたが、特に力を入れたのが教育分野。進学校をはじめとする府立学校の特色化の推進や、小学3年以上の習熟度別授業の導入など、数々の施策を打ち出した。「ほんまに、まとまるのかいな」--。策定にかかわったプロジェクトチームの一員は、当初は不安があったと打ち明ける。
大阪府は9年連続の実質赤字決算にある。府債残高は5兆円超。実質公債費比率は16・7%(2006年度)から急速に上昇することが見込まれる。17年度には25%を超え、新しく制定された自治体財政健全化法に基づく財政健全化団体に陥るとの府の試算もある。北海道夕張市のような財政再建団体(新法では財政再生団体)に転落するおそれさえある危機的状況だ。そのため橋下知事は「事前根回し一切なし」という異例の手法で再建案策定を急いできた。
プログラムのたたき台として4月に公表した再建試案(いわゆるPT試案)には、各方面から抗議が殺到した。まず、府庁内での反発がすさまじかった。「こんなの勝手につくりやがって」「知事はきれいごとばかり言っている」--。また、市町村振興補助金(年間12億円)の削減に対しては、「撤回せい」「理念がない」と各首長が猛反発した。
ただ、議論の場を公開するなどメディアを巧みに駆使した橋下知事の戦術は見事にはまった。プロジェクトチームには、府民から激励のメールや電話がひっきりなしだったという。「方向は間違っていない」と自信を深めた橋下知事は、プログラムを一気にまとめ上げた。
全国紙が府民を対象に実施した世論調査によると、プログラムへの「賛成」は8割超。知事のリーダーシップと策定のスピード感が、ひとまず評価されたとみてよいだろう。