「鳥貴族」がワタミをついに追い抜いた理由 全品280円均一の焼き鳥屋は何が強いのか

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鳥貴族の最大の強さは、お通し無しで280円均一という低価格ながら質の高いメニューにある。一般的な居酒屋のビール中生1杯の価格は400~500円。鳥貴族は看板メニューの樽詰め「金麦(大)700ml」「ザ・プレミアム・モルツ(中)380ml」「角ハイボール」などドリンクのほか、国産新鮮焼鳥「もも貴族焼&むね貴族焼=ネギ付き90グラム2本」をはじめ、味も満足感も高い焼き鳥などもすべて280円均一。なかには原価率が50%を超すようなキラーコンテンツもあるようだ。

「なにしろ客単価2000円台で本気飲み・本気食いができるのは驚異です。とても勝てないですよ。それゆえ当チェーンでは客単価2000円台の業態は捨てて、客単価2500円以上の新業態を開発し、生き残りを模索するより仕方ないと考えています」。ある居酒屋チェーンの関係者は語る。

大型ではなく小型の店舗展開

緻密な店舗戦略にも強さの秘密がある。鳥貴族社長の大倉は、大型のスーパーマーケット型ではなく、流通戦争で最終的に勝ち組になった小型のコンビニエンスストア型の店舗展開を志向している。鳥貴族の標準店舗は40坪70席と、大手の総合居酒屋と比較すれば小型だ。厨房システム重視でスケルトンからつくるので、平均投資額は4000万円。最近では50~70坪の中・大型店も展開するが、平均すれば鳥貴族の店舗は30~50坪。その分、出店が可能な物件の選択肢も多い。

関東圏の繁華街にある飲食ビルでは、比較的家賃の安い地下や空中階に好んで出店している。出店の特徴は渋谷駅周辺で8店舗、池袋駅周辺で9店舗、新宿駅周辺で6店舗というように、繁華街に集中出店していることだ。また、首都圏のJR中野駅やJR高円寺駅などでは南口店と北口店をそれぞれ出すようにしている。複数店舗を出したほうが食材の配送やパート・アルバイトの採用など、効率が上がるからだろう。

実はワタミとの居酒屋売上高ランキングを逆転させた背景には、大倉が執った店舗戦略がある。鳥貴族が東京に進出したのは2005年。大阪が地盤の大倉は、東京の地理にまったく不案内だったため、当時飛ぶ鳥を落とす勢いで成長していたワタミに着目、居食屋「和民」の近くに店を出し、おこぼれをちょうだいする「コバンザメ商法」を展開することにした。これなら立地の選定やマーケティング調査などに時間や費用をかける必要がない。余分なおカネをかけないのは大阪商人の哲学である。

2005年2月、大倉はワタミの創業店舗のあるJR中央線の高円寺駅北口に東京進出の小さなオフィスを構えた。そしてJR中央線沿いの中野駅近くに東京進出の第1号店「鳥貴族中野北口店」を開店した。居食屋「和民」の客層は20~30代の若い男女が多く、「全品280円均一じゃんぼ焼鳥 鳥貴族」の客層と共通していたので鳥貴族にシフトする顧客も多く、コバンザメ商法は当たった。

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